幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第3話

とある夫婦にできた子供は、魔法の素質を持っていた。
少女はすくすくと育ち、やがて魔法に興味をもつ。
自分も使いたいと毎日毎日練習した。
しかしある日をきっかけに、魔法を恨むことになる。


第3話 「みならい魔法使い」


「ベネジクトちゃん!あーそぼー!!」
「今忙しいからあとで!」
赤茶色の髪をした少年が、部屋に入ってくる。
その行動には何の躊躇もなかった。
いつもこうなのかもしれない。
「今日も練習?」
「うん、まだ1回も成功してないもん。ヨウソもやろう!」
「いいよ!僕も魔法使えるようになりたいから!」
ここから数十分、無言の時間が続いた。
集中力が途切れることなく、目標に向かってひたすら努力する。
しかし所詮は子供、30分程度が限界なようだ。
「ちょっと休憩しよう、ベネジクトちゃん」
「そうだね……」
2人とも大の字で寝転がる。
家具は邪魔をすることなく、2人を囲んでいる。
そしてそのままヨウソは尋ねた。
「ねえ、ベネジクトちゃんはスペルストーン何色?」
「赤だよ」
「わあ!僕も同じ!」
「じゃあ同じ火属性だね!」
スペルストーンとは、魔法を使う上で必ず持っていなければならない道具だ。
逆に言えば、奪われたり、落としたりなんかすれば魔法は使えない。
この世界の石は不思議な力を帯びており、魔力を持つものが触れると色が浮かぶ。
大体の人がアクセサリーに加工して持ち歩いているが、2人はまだ小さいので拾ったまま持っていた。
「うちは光属性がよかったなー」
「後から他の属性も使える人がいるってお母さんが言ってたよ」
「ほんと!?じゃあ使えるようになるといいなー!」
「ベネジクトちゃんならきっと使えるよ、がんばろう!」
「うん!」
こうして今日も、1日を終えた。



あれから数年。
12歳になった2人は、四年制魔法学校の入学式に来ていた。
体育館と呼ばれる場所はなく、直接教室に集まる。
「楽しみだね、ベネジクトちゃん!」
「うん、これからはみんなで魔法を練習できるね!」
運良くクラスは同じで、席も隣同士だった。
ヨウソと話し終えた時、左隣の席の女の子がベネジクトに話しかける。
「あなたの髪、綺麗な水色ね。私チモール、よろしくね!」
「あ、ありがとう……うちはベネジクト。チモールちゃんの髪も、綺麗な黄緑だね」
「えへへ、ありがとう!うーん、長いからベネちゃんって呼んでもいいかな?」
「え?い、いいよ!そんな呼び方されたの初めてだよ」
「じゃあ私が一番だね!そうだ、べネちゃんは魔法使える?」
「ううん、まだ使えないよ」
「私もそうなの!一緒にがんばろうね」
「うん!」
会って数分なのに、既に打ち解けていた。
ヨウソ以外にできた初めての友達だ。
しばらくして担任の先生が到着し、少しざわついていた教室に静寂が漂う。
「まず初めに、皆さん入学おめでとうございます。私はこのクラスの担任を務めるメチルです。担当は火魔法ですが、他にも草、光魔法も使えるので気軽に質問してくださいね」
そのあとは学校についての説明が行われ、入学式を終えた。



翌日、9時から授業が開始した。
授業といっても、最初は自己紹介や係り決めなどの学活の時間。
それが終わると、次は授業についての説明、配布物など……。
結局その日は、魔法についての授業はなかった。
「あーあ、せっかく楽しみに来たのに他のことばっかりなんて!こんなの魔法学校じゃないよ!」
「まだ最初だからさ。ほら、明日からはちゃんとした授業始まるって先生も言ってたし」
「じゃあ今日も練習して、早く魔法使えるようになろう!」
「そうだね!」
しかし、その日も魔法を発動することはなかった。


魔法学校で初めての授業の日。
今回は実技ではなく座学らしい。
「最初に質問をしましょう。魔法を使う為に必要な物はなんですか?」
先生がそう投げかけると、生徒は皆口をそろえて"スペルストーン"と回答した。
「そのとおりです。これ以外にも、素質や相応の努力が必要となります。それと、魔法使いには記憶力も大事なんですよ」
記憶力の乏しい者が魔法使いになると大変なことになる。
自分が使える魔法を把握できないからだ。
間違えて違う魔法を使い被害が出る事件は多いが、防ぎようがないため減ることは無かった。
「さて、皆さんはどのようにしてスペルストーンを持ち歩いていますか?」
メチルが黒板の方を向き、チョークで文字を書いていく。
色は白だ。
「私は見ての通り髪留めにしています。そうですね……チモールさん、あなたはどうですか?」
「ピアスにしています!」
耳を隠していた髪をよけ、みんなに証拠を見せる。
そこには緑色のスペルストーンがキラキラと輝いていて、まるで宝石のようだった。
とても丁寧に手入れされているのだろう。
「とても綺麗ですね。スペルストーンを大事にするのはいいことです。みなさんも自分のものは大切にしましょうね」
黒板には"スペルストーン"の下に箇条書きで髪留め、ピアス、ブレスレット……と、スペルストーンの所持方法が書かれていった。
拾ったまま持っていたベネジクトとヨウソは、お揃いの指輪にしていた。
「ちゃんと持っているようですね。それでも魔法が出せない人、それは出し方が間違っている証拠です」
メチルは右手を前に出し、炎をその手に宿した。
暖かいオレンジ色の炎だ。
「力を込めすぎてはいませんか?魔法は優しく、なるべく力を抜いて……」
さらに左手に光を灯す。
「やってみてください」
生徒全員、利き手を机の上に置いて言われたとおりに試してみる。
するとたちまち教室が様々な色で溢れかえった。
「ほら、簡単でしょう?」
ベネジクトも例外ではない。
右手には、小さな炎がパチパチと燃えている。
「やったあ!初めて魔法出せたよヨウソ!……ヨウソ?」
ヨウソももちろん魔法は出せていた。
ベネジクトと同じ火魔法だ。
「あ、青い……でも、僕の属性は火だよ?」
青いが、形は炎そのものだった。
そこにメチルが寄ってくる。
「珍しいですね、青い炎はとても温度が高いんですよ。ちゃんとみんなと同じ火魔法ですから、安心してくださいね」
この青い炎を出せるのは、世界で10人にも満たない。
ちなみに全人口は約100万人程度だ。
これには人間と妖精が含まれており、魔物はもちろん、妖怪もカウントされていない。
だが、人間か妖精の血が少しでも入っている者は数に含まれている。
「今は1つの属性しか使えなくても、私みたいにあとから使えるようになる人もいますよ。それは努力次第です」
その後もこのような初歩的な授業をして、下校となった。


これから約3年後、ベネジクト達が最上級生になった頃。
魔法は彼女を一変させた。