幻石〜5つの石を探す旅〜

素人の一次創作サイトです。

幻石〜5つの石を探す旅〜 第4話

努力を重ねた少女は、やがてその才能を開花させた。
しかしそれは天才だからと、努力を褒められることはなかった。
感情を抑え、彼女は今日もひたすら努力する。


第4話 「覚醒」


時は経ち、最上級生、つまり4年生に進級した。
入学後も毎日欠かさず練習はしたが、今も火魔法以外使えない。
自分に他の素質はないのだと、この学年に上がるときにはきっぱり諦めていた。
対するヨウソは、火魔法に加え水魔法も習得し、学年でもトップの成績だ。
「今日も駄目だったなあ……」
ベネジクトは1人、ワンエリアの中心にある噴水で黄昏ていた。
暑いからと露出の多い服を着ていて、髪も上で1つに束ねている。
しかし気温はさほど高くない。
「ん?なんか騒がしい?」
何かイベントでも起きているのだろうと、気分転換にそちらへ向かう。
が、どうやら少し違うらしかった。
「え!?何!?向こう学校じゃん!!」
足は自然と前へ走り出していた。


「はぁ?何これ……」
目的地へと到着すると、そこには大きな炎が燃え盛っていた。
おそらく魔物の仕業だろう。
だが周りには魔物はおろか人っ子ひとりいなかった。
皆逃げているからだ。
もちろんこの火を消そうとする者もいない。
だが、ベネジクトは違った。
「消さなきゃ……学校無くなる!!」
何かに取り付かれたように腰にあった杖を抜く。
そして震えながら杖を構えた。
「う、うちが消す、魔物もろとも!!」
そう叫んで校舎を真っ直ぐ見据えた時。
右手の中指に指輪としてつけていたスペルストーンが輝いた。
それは魔法使いならば一度は見たことがある輝き。
「水魔法、その1!!」
大量の水が校舎を覆い、炎が一瞬にして消えた。
消えるとともに、ベネジクトは急いで校内に進む。
しばらく進むと、案の定魔物が入り込んでいた。
「ここはあんたらの住処じゃないでしょ。闇魔法その1!」
紫色の光が銃の弾丸のように打たれた。
それは確実に急所を突いており、魔物はその場に倒れふす。
「草魔法、その1」
魔物を倒しながら、避難しきれていない人はいないかとサーチする。
案の定、2人の反応があった。
ワープしてその場所に着くと、そこにはサーチ通り2人の1年生がいた。
「もう下校時間過ぎてたじゃん、何やってんの!?」
「帰ろうとしたら魔物が来て……」
「怪我しちゃって動けないの、私じゃ抱えられないから何もできなくて」
「はぁ……光魔法、その1」
暖かい黄色の光が怪我の部分を包む。
すると、跡形もなく怪我が治っていった。
「あ、ありがとうございます!!」
「今度からはさっさと帰んなよ」
ベネジクトは草魔法で2人をワープさせた。
「さて、駆除されたい魔物はどこかな」
真正面からは大量の魔物が向かっていた。



「ふぅ、やーっと片付いた」
校内の魔物全てを排除し終え、伸びをしながら出てくる。
今の騒ぎのせいか、あたりは静まりかえっていた。
そのせいで声がよく聞こえる。
「ベネジクトちゃん!!心配したんだよ!?」
「ヨウソ……ごめん、でもこのとおり無事だし。魔物も追い払ったから学校も大丈夫。ちょっと壊れちゃったけど」
「え、追い払ったって?それに火だってあったはずだよ?」
心配していた顔に、無事だとわかった瞬間に微笑みが浮かぶ。
しかしその後はポカーンとした表情へと変化した。
忙しい奴だ。
「みて!うちね、全部の魔法使えるようになったんだよ!」
そう言ってスペルストーンを見せつけた。
赤だけだった石が、5色に輝いている。
赤、青、緑、黄、紫の5色だ。
「え?でも、最高でも3つまでだって先生も言ってたし……」
「信じらんないなら見せたげる」
そう言うと、それぞれ簡単な魔法を発動させる。
覚醒させたばかりの技を、確実に使いこなしていた。
「ほんとだすごーい!ベネジクトちゃんの努力が報われたんだね!」
「あははっ!じゃ、帰ろう。ママにも見せなきゃ!」
「そうだね!」
2人は静かな道を、家に向かって歩いていく。
家は隣同士なので帰り道は同じだ。
しかし噴水の近くまで来ると、あたりがざわつき始めた。
「人増えたね」
「そうね、何かあったのかな?」
もしかしたらと、走って様子を伺いに行く。
そこには5m程の、日本でいう恐竜に似ている魔物がいた。
「アフレイドラゴン……?」
授業では魔物についても少し勉強するので、有名な魔物なら弱点なども知っている。
アフレイドラゴンは滅多に人前に現れないが、誰もが知っているような魔物だ。
「なんで今日は魔物がいっぱい来るわけ!?意味わかんないんだけど!!」
「とにかく逃げなきゃ、食べられちゃうよ!!」
「いや、倒すよ。どうせここの大人は使いもんにならないんだから」
「無茶だよ!!」
「ここが破壊されてもいいわけ!?」
言い返す言葉が無くなったのか、ヨウソは黙って下を向いてしまった。
ぎゅっと目をつむり、覚悟を決める。
「わかった、僕も行くよ」
「うん。あいつは確か……」
「火魔法に弱いよ」
「じゃあ、うちが最大出力の炎を出す」
「なら僕は後ろから援護するね。危なくなったら、すぐ逃げるよ?」
「わかってる」
2人とも杖を手に取り、戦闘態勢に入る。
ベネジクトは走って魔物に近づき、ヨウソはベネジクトにバリアを張った。
「火魔法、その21」
炎の檻が魔物を取り囲む。
「!?ベ、ベネジクトちゃん……髪が!!」
「え?」
綺麗な水色の髪が、魔法を使った瞬間赤褐色に染まった。
試薬が物質に反応したように、生え際からムラなく。
「そ、そんなことより魔物を先に!!」
口ではこう言っているが、目は嘘をつかなかった。
どこか遠くを見ているようだ。
「危ない!!」
声とともに正気を取り戻し、魔物の攻撃をギリギリで回避した。
そしてすかさず魔法を放つ。
「火魔法、その6!!」
叫ぶだけ叫ぶが、何の変化も現れない。
しかし2人は驚きもせず、当たり前のように回避に専念する。
数秒したその時、魔物の動きがピタリと静止した。
「成功!さあ、逃げるよ!!」
「わかってる!」
笑顔でその場から離れ、魔物を見つめる。
すると、魔物が急に爆発してしまった。
あたりにはなかなかグロテスクな光景が広がっている。
時間差攻撃と言ったところだろう。
「うーん、バラバラになることは計算外だったわ」
「ど、どうするのこれ……?」
ベネジクトはどこからか棒付きキャンディを取り出して口に含んだ。
「そうだ、どっかに飛ばしちゃえばいいじゃん」
「え、でもできるの?」
「ワープ使えるから」
「飛ばす場所は?」
「それが問題ね、どっかあったかなー」
知っている場所に良さそうな所はないかと思い出す。
「駄目だぁ、海しかでてこないよ」
「そうだ、大きな穴を掘って埋めるのは?」
「じゃあ森で決まりだね!」
「よし、なら早く行こー!」
そのあと火魔法で穴を掘り、お墓も建てたとか。



「おはよー」
次の日、ベネジクトはいつもどおり登校した。
が、クラスメイトからの視線がやけに痛かった。
「あいつ昨日あのアフレイドラゴン倒したんだろ?」
「おっかねーよな、それに全属性の魔法使ってたらしいぜ」
「私ちょっと見てたけど、魔法使ってたとき髪の色が変わってたよ」
「何それ、そんな魔法あんの?」
「悪魔かなんかじゃね」
俗に言う陰口……否、悪口がクラス中に蔓延していた。
人という生き物は、少しでも違うことをすれば輪から浮いてしまう。
それが尊敬に値するか、軽蔑に値するかは、周りの人間の価値観によって決まるのだ。
「おはよー!ベネジクトちゃん!昨日はすごかったねー!」
タイミング悪く、ヨウソが登校してきた。
ヨウソは周りの目など気にしていないようだ。
「ご機嫌麗しゅう、ベネ。昨日は凄かったんだってね?」
ベネジクトが入学して初めてできた友達、チモールだ。
あの後あまり気が合わなかったのか距離を置いて接していた。
それなのにたまに喧嘩もあったらしい。
「ねえ、ちょっと見せてよ。あれを倒したっていう魔法!」
いつもとは違う純粋な目をしている。
チモールもまた、周りのことなど気にしてはいない。
「あんたはうちをからかわないの?」
「からかう要素がどこにあるの?ベネは私等を助けてくれたんでしょ?それに全属性使えるなんて凄いわ、あなたは天才よ」
「ありがとうチモール。いいよ、でも時間ないしまた後でね」
もうすぐ授業が始まる時間なので2人とも席に着いた。
他のクラスメイトも同様に着席する。
チャイムが鳴り、担任……メチルが入ってきた。
すると真っ先にベネジクトの元へ駆け寄り、話し始める。
「ありがとうベネジクトさん!昨日この学校とエリアを救ってくれたんですってね。凄いわ、あなたは天才ね」
「あ、ありがとうございます……でもうちだけじゃないですよ。ヨウソも一緒に戦ってくれました」
「ぼ、僕は後ろでシールド張ってただけだよ。倒したのはベネジクトちゃんです」
ベネジクトもヨウソも苦笑いを浮かべている。
チモールを除くクラスメイトは少し不機嫌そうだ。
「でも2人で守ってくれたことに変わりはありません。明日長様が表彰式をしてくださるんですって」
長様とはその名の通り島ごとにいる長のことだ。
6の島ではシャンが長をしている。
「は、はぁ……」
驚きと面倒だという気持ちが顔に思いっきり出ていた。



表彰式の後も天才と謳われ、いろいろなところに引っ張りだこだった。
ベネジクトはだんだんと気づき始める。
皆が褒めているのは才能で、努力ではないと。
努力が実り力を手に入れても、見てない者には触れられもしないのだと悟った。
それでもいつか認めてもらおうと、彼女は今日も努力する。