幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜その他の愉快な仲間たち〜 第1話

「はあ〜、なんで私が長なんか……」 

「文句言ってないで早くお済ませください」 
アレス城で日常となっているこの会話。
王女にあたるシャンは、6の島の長をしている。 
その仕事をだらだらやっている所に、シャンの秘書であるサージャが活……というより駄目出しを入れる。 
「ねえサージャ、長は民のことを良く知ることも大事ですよね?」 
「はい……まあそうですね」 
「だったら直接会って話すべきですよね?」
「今は駄目ですよ」 
完全に仕事をサボって城下町へ繰り出すことが読まれている。 
「わ、わかってますよ!!」 
現在午前10時頃。
今日が終わるには時間がありすぎた。 
知恵をフル活用し、作戦を練る。
諦めるにはまだ早い。 
 
 
第1話「民は長の宝物です」 


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「おわったぁ……」 
「お疲れ様です。昼食の準備ができておりますので、食事室へ行かれてください」 
「することがありますから、少し遅れるとお伝えください。……午後にも続きがあるのですか?」 
「了解です。書類の決裁はこれで終了ですので、午後は地下ですね」 
「そうですか。ではまた後ほど」 
群青色の長い髪を揺らしながら、部屋から出た。 
扉を閉め、たたんでいた羽を広げる。 
シルフには及ばないが、走るよりも明らかに速いスピードで目的地へと向かう。 
目的地は自室だ。 
「ふふっ、久しぶりに行きますよ!」 
部屋に入りクローゼットを開ける。 
そこにかかっていたフードつきのワンピースを取り出し、体に身に付けた。 
そしてフードを被り、窓から脱出に成功した。 
 
 
 
お昼時ということもあり、商店街はいつもより賑わっていた。 
「最初はいつもの野菜屋さんですねっ」 
民は皆シャンの顔を知っているが、誰一人として感づきもしない。 
やはり顔が見えないとわからないようだ。 
「すいません!林檎お1つ頂けますか?」 
「あいよっ!あぁ?なんだシャン様じゃねーですか。いつもどおり切り分けますかい?」 
元気な、いかにも八百屋のおじさんという人が応対する。 
いつもどおり……と言うことは、何度もこうやって訪れているのだろう。 
「やっぱりばれましたか。では今日もお願いします。はい、代金です」 
「まいど!少し待っててくだせえ」 
城下町へ出かけたときはいつもお世話になっているらしい。 
ちなみにこの世界のお金は日本と同じものだ。 
日本から迷い込んだ人物が伝えたのだろう。 
しかし模様が若干違ったり、お札に写っている人物もこの世界特有となっている。 
「できましたよー!」 
「ありがとうございます。今日も美味しそうですね!」 
「美味しそうじゃなくて美味しいんですよ!」 
「ですね、林檎にハズレはありません!ではいただきます」 
まずはパクっと一口。 
シャクシャクと音をたてながら噛んで飲み込む。
「久しぶりに林檎を食べましたが、やはりとっても美味しいです!」 
「この林檎を作った人に感謝ですなあ」 
「これはどこから?」 
「4の島ですよ」 
林檎を頬張りながら会話を続ける。
見てわかるとおり、シャンは民に愛されていた。 
10歳頃からこの仕事をしているせいか、民はシャンを近所の子供扱いしているようだ。 
丸々1つをあっという間に食べ終え、そこから席を外した。 
「次は……そうだ!公園に行きましょう!」 目標地点まで、ゆっくりと歩く。 
フードはまだ外していない。 
 
 
「遅いですね、シャン様」 
「遅れると言ってらしたじゃないですか」 
「それでも遅すぎです」 
アレス城の食事室で使用人達が会話する。
いつもなら飛んでくるのに、唯一の楽しみであるように嬉しそうに来るのに……。 
「真騎様にお伝えしましょう!」 
「真騎様はいらっしゃいませんよ、サージャ様に連絡しましょう」 
精一杯の草魔法で、サージャに連絡を入れる。 
「サージャ様……シャン様がまだ来られないのですが……」 
『あのお方は……逃げたわね』 
「え!?」 
『報告感謝します。貴方達はそこを離れていただいて構いませんよ』 
そこで通信は強制終了されてしまった。 
 
 
「予想通り子供達でいっぱいですね」
公園に到着。 
そこではたくさんの小さな子供が遊具で遊んでいた。 
「どこのグループと遊びましょうか」 
フードを外し、直感で選んだグループに向かう。 
しかし気づいた子からグループ関係なく近寄ってきた。 
「シャン様だー!」 
「遊ぼー!」 
「いいですよ、そのために来たんですからね。何しましょうか?」 
1分と経たずに、シャンの周りは子供でいっぱいになっていた。 
種族も実に様々で、人間はもちろん妖精やハーフなどもいる。 
「隠れんぼやろー!!」 
「賛成!!」 
満場一致で隠れんぼに決定。 
探すのはシャンだ。 
60秒数え終わり、目を開く。 
「本気でいきますよ!」 
遊びを心から楽しんでいるようだった。 
しかし城の者との隠れんぼも始まっていることにシャンは気がつかない。 
 
 
アレス城大広間。 
白姫達が初めて顔を合わせた場所だ。 
「サーチ不可能です……」 
「城下町の奴らと相当溶け込んでんな」 
「あの方には王者の風格というものが全くありませんからね」 
「言い切った!!」 
サージャが草魔法でシャンを探すが見つからないようだ。 
サーチといってもサージャの場合はいわゆる千里眼のようなもので、ある程度場所の目星をつけないと見つけるのは難しい。 
「レイバーは心当たりありませんか?」 
「そうだな……公園はどーだ?」 
「公園ですか」 
納得いかないままその場所を探してみる。 
「……はぁ…………見つけました。行きますよ」 
「え、俺も行くの!?」 
 
 
「なかなか見つかりませんね、皆さん隠れ上手です」 
脱走がばれた上に居場所も掴まれていることも知らず、呑気に隠れんぼの続きをしていた。 
「そもそも何人いたのでしょう?」 
本当に呑気だ。 
危機感がまるで無い。 
「しかし困りましたね、もうすぐ見つかる時間です」 
態度とは裏腹に、シャンにも探されていることがバレていたらしい。 
きっと何度か脱走する間に見つかる時間をだいたい覚えたのだろう。 
行動範囲が狭いので、早く見つかるのも仕方が無いのかもしれない。 
「あっ、ごめんなさい皆さん!隠れんぼは終わりです。本当にごめんなさい!」 
サージャ達の気配がしたのか、隠れんぼを強制的に終わらせて逃げに徹した。 
今度は鬼ごっこの始まりだ。 
 
 
「流石にもう見当たりませんね……」 
「完璧気づかれてんな。どこ行ったんだよー!」 
少し遅れて、2人は公園に到着した。 
しかし危険を察知し逃亡しているためシャンは何処にも見当たらない。 
「レイバー、次は何処にいそうですか?」 
「また俺かよ!んー、商店街に戻ってんじゃね?」 
「行きますよ」 
「うっす……」 
 
 
「おじさん!かくまってください!!」 
「戻ってきたんですか。もう見つかったんすね」 
先程の八百屋に戻ったシャンは、隠れて逃げ切る作戦に出たようだ。 
だがしかしここまで2回も勘を当てているレイバー相手に逃げきれるだろうか。 
「今日のレイバーは冴えてますから、予定より速く見つかってしまいました。直接姿は見られてないと思いますが、次もピンポイントで場所を当てるに違いありません!」 
「上司も部下もお見通しってことですね~」 
「一応私だって仕事のつもりで来てるのに……プライベートだったらわざわざ地下のお仕事サボりませんよ」 
アレス城の地下には牢屋が存在する。 
つまり地下の仕事とは囚人の様子見のことだ。 
この仕事はシャンが10歳の頃から任されており、仲のいい囚人もいたりする。 
ちなみに攻撃部隊隊長のレイバーも元々囚人だったりするが、その話はいずれまた……。 
「お、なんでまたこんな時に?」 
「昨日旅に出た真騎から、ワンエリアの住民のことを通信で知ったのです。それ聞いたら、こうやって民と話さないとわからないこともあるなーって」 
「く〜!嬉しいねえ!俺はこの世界に生まれてよかったですよ!」 
「本当にそうだぜ!俺もこの世に生まれて幸せだ!」 
「え!?!?!?」 
2人の会話に割って入ったのはレイバーだった。 
もう追いついたようだ。 
「い、いくらなんでも早すぎます!!」 
「城下町に降りるのは仕事の無いときにしてください。サボってもらっては困ります」 
「仕事の無いときなんて無いじゃないですかー!!」 
シャンはレイバーに片手で抱えられ、城へ連れていかれた。
脱走してからここまでの時間は、約1時間程度しか経っていなかった。 
 
 
「囚人であるあなた方の気持ちがよくわかりました……」 
「ここは脱走しようにもそんな場所ねえんだから、シャン様の方がましじゃあないですか」 
あのあとなんの抵抗もせず、素直に仕事を続けていた。 
仕事といっても囚人の見張り……シャンにとっては雑談タイムだ。 
囚人でも根はいい人だったりするので、仲良くなるとシャンが勝手に刑期を縮めたりすることもあったりする。 
「あら、ここだってしようと思えばいくらでも脱走可能ですよ?」 
「え!?そうなのか!?」 
「お知えられませんけどね」 
ニコッというよりニタァとした笑みをこぼす。 
腹黒さがだだ漏れである。 
「あ、でもあなた方は魔法使えませんでしたね。それでも脱走はできますが」 
囚人なのでスペルストーンは奪われており魔法は使えない。 
無くても使える妖精は特殊な魔法で魔力を封じられている。
「そろそろ戻らなくては……今日も楽しかったです。ではまた今度!」
囚人達に見送られ、シャンはその場を後にした。
 
 
その日の仕事を終え、シャン、サージャ、レイバーが小部屋に集まる。
真騎達と通信する為だ。
「今日はとても楽しい1日でした」
「こっちは大変だったんすからね!?」
「もうあのような真似はやめていただけますか?」
「それは承諾不可能なお願い事です」
全くこりていないようだ。
ここまでくると本当に王族なのかという疑問が生まれてくる。
しかしシャンにはアレス城の後を継ぐことのできる血が流れているのでご安心を。
「民は私の大切な宝物ですから」
「そう思うのならば仕事もきちんとこなしてください」
「してるじゃないですか!!」
「は、はやく通信始めようぜ?な?シャン様?」
半ば強引に通信を開始させた。
アレス城は今日も平和だ。