幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第8話

顔に2つ、獣の爪でつけられたような痣をもつ男性が、白姫を見つめながら話す。
「会いたかったよ、白姫」
大粒の涙と笑顔をこぼしながら白道が放ったその言葉は、たった一言であったはずなのに、皆をさらに混乱させた。
そして、風は2人の間を通り抜けた。

第8話「1人目確保」


「そもそもお主らは何者なのだ。なにゆえ我にそのような言葉をかける?」
「う、うえぇぇぇん白姫が反抗期だぁぁぁうわあぁぁぁん!!!!」
「問いに答えんか!!」
白道は座り込んだまま、さらに泣いていた。
まるで大きな子供のようだ。
「わかったわかった、あたしが答えるよ。あたしはさっき名乗った通り、時節 詩貴さ。そしてこの真っ白いのは白道
ところどころ色が入っている白姫と違って、白道は頭からつま先まで全て白い。
唯一違うと言えば肌の色と傷跡のみだ。
服装は道着、もちろん白帯。
「そういや、さっき突然出てきたけど……何魔法?うちあんな魔法知らないよ」
「ん?ありゃあ白姫も使えるだろう?見たことないのかい?」
「え、なんで知って」
「白姫って魔法使えたの!?」
魔法関連となるとなんでも興味を示すのは、典型的な魔法使いだからかもしれない。
しかし残念ながら魔法ではないようだ。
「あれは魔法などではないぞ。妖怪が使う能力だ」
言いながら、左手を透明へと変えた。
装備している青の手袋も共に見えなくなっている。
「妖怪はみんな透明になれるの!?」
「そんなわけなかろう。皆それぞれ違う能力だ」
「本で読んだことがあります。妖怪は魔法が発達した時代よりも前からこの世界に住んでいるので、不思議な能力が使えると。それも種類は様々だとか」
「我の知り合いには、記憶を操作できる者や痛みを感じさせず傷つける者などがおるぞ」
能力は1つのみ――相手の能力を使える能力などは1つではないが――しか使用できず、魔法は会得できない。
「ってことはこの人妖怪なの!?」
どこからどう見ても人間の容姿をしている為、間違えるのも無理はない。
妖怪には人型と、あきらかに妖怪という2種類に分けられる。
白姫はもちろん前者だ。
「それよりはよう教えんか。お主は何者なのだ!!」
泣き崩れている白道には、その言葉は届かない。
横にいた詩貴も、扇子で口を隠しながら傍観しているだけだ。
すると口に加えていた棒付きキャンディを手に持ち、ベネジクトが続けた。
「あんたさ、知り合いに記憶を操作出来る奴いるって言ったじゃん?そいつに操作されてるってことはないの?」
「あ、そうだ!そうだよ!!餡ちゃんに頼んだんだ!!」
「は?何故餡のことまで知っておるのだ?」
白道は喜怒哀楽がとてもはっきりしているようだ。
話から察するに、餡という人物……妖怪が、白姫の記憶を操作した為に、白姫は白道のことを知らないのだろう。
それも白道自身がそうさせたらしい。
「なんだいあんたのせいなんじゃないかい。自分の言ったことくらい覚えときな」
「だってもう1700年以上前だよ?流石に覚えてないって!」
妖怪の寿命は、人間の寿命×100くらいが目安だ。
齢1756の白姫を例にとると、だいたい17歳くらいということになる。
時間感覚も異なっており、10年なんてついこの間のようなものだ。
「それなら、その餡というお方に会って戻してもらえば完璧なのでは?」
「えっと……それはだな……」
急に白姫が静かになった。
誰とも目を合わさない。
「700年程前に喧嘩別れしておってな……所在が分からぬのだ」
「えぇ!?喧嘩したらごめんなさいって言うよう教えたよね!?咲姫さんだってそう言ってたよ!?」
「おいお主、今なんと……」
「え?喧嘩したらごめんなさいって言えって……」
「その後だ!!」
何故か白姫はひどく動揺していた。
白姫の瞳は、ただ一点、白道だけを見つめる。
そして白道もまた白姫だけを見つめている。
「そっか、結局僕が誰か言ってなかったね。というか思い出すまでいかなくても察して欲しかったんだけど……」
ひと呼吸置いてから笑顔で続ける。
「いや、やっぱり餡ちゃんと仲直りしてから思い出させてもらってよ」
「はぁ!?そこは教えるべきだろうが!!」
「だってそうじゃないと、謝りに行かないでしょ?」
図星だったのか、返す言葉が白姫の口から出てこなかった。
すっかり立ち直った白道は、大きく伸びをする。
先程までの子供っぽい言動とは真逆の態度だ。
「大きくなったね、白姫。前は僕の足までしかなかったのに」
「し、知ったような口を聞きおって!」
「だって知ってるもん。僕は君のちちおいや何でもない」
勢い余って吐き出しそうになった言葉をあわてて呑み込む。
しかし、白姫にはばれてしまったようだ。
「ほう、成程のう。お主嘘が下手だのう」
「うちも今のでなんとなく理解できたわ」
さらに事情など全く知らないベネジクトや真騎にまで。
レストは分からなかったのか、聞いていないのか、いつも通りの無口で真顔のままだ。
「あっはっはっ!!全員に悟られてるじゃないかい!」
「そ、そこまで言うことないじゃん!!」
白道は頬を膨らませ、そっぽを向いた。
また子供に逆戻りだ。
「仕方ない。お主のことは餡から聞こう。まずは任務遂行が先だ」
「きっと全ての島を回ることになるでしょうから、途中でその餡さんという方が見つかるかもしれません」
「え?任務?僕に会いに来てくれたんじゃないの?」
「いままでのやりとり、お主も加わっておったよなあ?」
素で間違えたようだ。
どうやら白道は態度のみならず頭脳も子供らしい。
これで何年生きようが、必ずしも頭のいい者ばかりではないということが証明されただろう。
「どんな任務なの?」
「幻石の守り人を探せという任務だ」
「へー、詩貴姉さん知ってた?」
「いや、これは予知できなかったねえ」
想像もつかない話しなのか、驚きも少ない。
むしろ冷静で、真剣に考えているようにもとれる。
「予知?あなたも妖怪?」
「んー、まあそんなもんかねえ。元は妖怪ってとこさ」
ベネジクト、いや、白姫も真騎ももちろんレストも、理解が追いついていなかった。
突然発せられたその不可解な文が、4人を悩ませた。
「これにはまず、幻石の話しをしないとねえ」
「は?ますますわかんないんだけど?」
「いいから座って聞いてな。守り人、探してるんだろう?」
詩貴も、地面に腰を下ろす。
続けて他の全員もそこに座った。
話が始まってもいないのに、レストは舟を漕いでいる。
「守り人とはその名の通り幻石を守る者のこと。これは合っているが間違いでもある」
「もーさっきから訳わかんない!!もっとわかり易く説明してよ!!」
「せっかちだねえ。そんなんじゃモテないよー?」
「い、今そんなの関係ないし!!」
ニヤリと笑う詩貴。
それには大人の余裕が感じられた。
「じゃあ結論から言おう。守り人とは幻石そのもの。幻石が化けた者のことさ」
「なるほど。それならつじつまが合いますね」
「え?なんか矛盾してた?」
その問いかけに真騎は笑顔ではいと答える。
そしてそのまま続けた。
「時節さんが初めて私達の前に姿を表したとき、幼い子供の容姿をしていました。その後今の容姿に戻った時、時節さんは妖怪で、変化できる能力なのだと思いました。変化できる魔法なんてありませんからね。でも時節さんは妖怪ではないと、そして幻石は人に化けられるのだとおっしゃいました。つまりそう言う事です」
「勘がいいねえ坊や」
真騎は坊やという言葉に苦笑いを浮かべつつ、ベネジクトへと視線を戻した。
視界に入ったのは同じく苦笑いを浮かべたベネジクトだ。
やはり理解できていないらしい。
しかし白姫の方は分かったようだ。
「そうさ、私が時の幻石の守り人。そして時の幻石そのものさ」
「わっ!!」
詩貴が自分の正体を告げたとき、白道の姿が声とともに消えた。
能力ではない。
「タイミングわっる!!っていうか落ちた!?」
そう、崖から落ちたのだ。
どうやら座っていた崖から落ちたらしい。
「た、助けなくては!!」
でもどうすればなどと呟きながら慌てふためく真騎。
あまり見られない光景だ。
「たまに落ちるんだよ。ほんと学ばないねえあいつは」
「助けてえええええ!!!!!!」
心配する様子もなく、呆れながら扇子を閉じる。
そして下の海へと落ちていく白道を確認すると、そこから一歩下がった。
「今からあたしが時の幻石であることを証明してやろうかねえ」
持っていた扇子を異空間へしまい、そうして空いた手で指を鳴らした。
その音が鳴ったとき、落ちているであろう白道の方から青白い光が見えた。
覗きこまずとも見えるとても明るい光だ。
その眩しい光で反射的に目を瞑る。
目が慣れて開いた時には、落ちていたはずの白道が皆の目の前に立っていた。
「お主、どうやって!?」
「瞬間移動もできるの!?」
「え?戻ってきてる……?」
「眩しい……」
案の定、4人とも……レストを除いた3人ともが驚いていた。
対する白道は、落ちる度にこうやって助けられているのだろう。
特に不思議がっている様子はなかった。
「今のは白道の時間をちょいと操作しただけさ」
白道さんの時間?」
「そう。厳密にいえば白道の周りの時間を巻き戻したんだよ」
細かいことは理解しかねるが、詩貴は正真正銘の時の幻石なのだと信じられずにはいられなかった。
「よければ、幻石ができた頃のこと教えて頂けませんか?」
真騎の目が輝いている。
真騎が物知りなのは、こういう好奇心からきているのだろう。
きっと城の書物も、全て読破しているに違いない。
「あんたら急いでるんじゃないのかい?長くなるよ?」
「構いません!!」
「良いんじゃない?少しくらいさ」
「……わかった。話したげるよ。幻石のこと、守り人のこと、そして……ルシャトリエのことも」
その名を口にした瞬間、詩貴の顔がどこか寂しそうな表情になったような気がした。