幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第9話

幻石が創られたのは、今から約2000年以上も前のこと。
日本では鎖国が始まる頃だ。
鎖国を開始した年を約1640年だとすると、現在の日本は約4000年ということになる。
その頃、フランスからの船が日本に到着した。
そしてその船の観光客の中に、2人の兄妹が乗船していた。
「日本だー!!侍見られるかなー!?」
「どうだろうね、はっ!侍だから見えない所にいるんじゃね!?」
「アフラ、それ忍者だよ」
2人の目的は、日本に出来た教会を見に来るため。
親が残した、唯一の物だから。


第9話「ようこそ、異世界へ」


「着物!本物だー!!」
「リエ、あんまりはしゃぐとはぐれるぞー」
薄いピンクの2つ結びの少女はルシャトリエ。
金髪の1つ結びの少年はアフラ。
この2人は血のつながっていない兄妹だ。
家族を亡くしたルシャトリエを、アフラの親が引き取ったのである。
しかしアフラの親も、ついこの間亡くなってしまった。
2度も家族を失ったルシャトリエが今元気に居られるのは、アフラがいたからかもしれない。
そして今日、アフラの親が残した設計図を元に造られた教会を見るために、日本へ訪れていた。
「可愛い建物かなー?」
「教会だぜ?可愛いわけあるかよ」
「わかんないでしょ!!」
関係者から渡された手書きの地図を頼りに、教会へと向かった。



「ねー、ほんとにこっち?迷ったんじゃないでしょうね?」
「も、もうすぐ着くって!!」
「貸して!私が見るから」
強引に奪い取り確認するものの、現在地が把握できていないせいで結局分からなかった。
そもそもこの地図には森なんて載ってはいない。
通る必要がないからだ。
「お腹すいたー!!歩けないー!!」
「俺もだよ……は、腹減った」
その場にへたり込む2人。
下船してからずいぶんと歩いている。
食料は何も持ってきてはいなかった。
地図によれば、すぐに到着する予定だったからだ。
「なんでご飯何も持ってきてないの?」
「だってすぐ着くって書いてるし」
「アフラのバカ!!着かないじゃん!!」
「あぁ!?じゃあリエが持ってくりゃ良かっただろうが!!」
ストッパーは何処にもいない。
筈だった。
「やめな、2人とも。喧嘩なんてみっともないよ」
木陰に女性が現れた。
服装は綺麗な藍染の着物だ。
顔は左目以外扇子で隠れてよく見えない。
「何だお前……」
ルシャトリエを守るように反射的に手を出す。
先程まで喧嘩していたのが嘘のようだ。
「それはこっちの台詞さあ。見たことのない着物を着ているじゃないか」
「俺らはフランスから来たんだ。これはそっちの服さ」
「ふらんす……?あんたら人間かい?」
「はぁ?」
ピリピリしていた空気が一瞬にして消えた。
ルシャトリエの前に出していた手も自分の元へ戻っている。
「森で迷ってただろう?」
「だ、だからなんだよ!!」
「あんたらは道だけじゃなく、世界も迷ってんのさ」
顔が隠れていても、怪しい笑みをしてることが容易く読み取れた。
徐々にこちらに近づいてくると、低木に隠れて見えていなかった足元が見えてくる。
それと同時に、顔を覆っていた扇子も着物の中へしまった。。
露になったその容姿に、2人は目を見開いた。
「人間じゃ……ないのか…………!?」
口元には大きな牙があり、下半身は足ではなく、蛇の胴体そのものである。
その容姿に怯えることもなく、ルシャトリエは自分の記憶を話した。
「私、本で読んだよ。日本には人間以外の生き物が住んでるんだって。名前は妖怪」
「あれは作り話だろ!?」
「でもあたしは実在してんだろう?だから言ったじゃないか。世界も迷っていると」
「どういうことだよ……」
アフラは少しイライラしているようだ。
空腹のせいでもあるだろうが、一番はその言葉の意味を理解できないこと。
昔から頭はいい方で、周りの者から讃えられて育ってきている。
いわゆる、少し褒められて調子に乗っているタイプだ。
それが事実なのに変わりはないが。
「ここはあんたら人間が住んでる地球とは違う世界さ。異世界ってやつかねえ。地球にある日本というところの何処かと繋がってんだよ。それは数箇所あって、大体が森さ」
「でも俺たちはそんな入り口通ってないぞ!?」
「頭の悪いガキだねえ。入り口なんて見えないのさ。妖力の強い者だけがこちらに来れるってことだよ」
「馬鹿って言うな!!」
余程馬鹿にされるのが嫌らしい。
それともそれ以外のことは理解できたからこその反論なのかもしれない。
感情的になっているアフラをよそに、ルシャトリエは妖怪に尋ねる。
「ねえ、妖力ってなあに?」
「んん?妖力ってのは、人間でいう霊感の妖怪版みたいなもんさ。神社とか教会によく行く奴らは妖力が強いって聞いたことがある」
「妖怪が見える人のこと?妖怪が持ってる力じゃないの?」
「簡単に言えばそうだねえ。妖怪も持たない訳じゃないさ。なんせ妖怪は妖怪が見えるんだからね、人間よりは妖力は強いさ。ただし人間の妖力と妖怪の妖力は違うんだよ。妖怪はそれを目に見える力に変えることができる」
ここでまた疑問が生まれた。
目に見える力とは?
特定の人には見えるらしいオーラのように周りに纏うのか?
しかしそれだと全員には見えない。
そもそも目に見える力とは?
超能力?
それともエスパー?
「いくら考えても出てこないさ。なんたってあんたらの世界ではお目にかかれないもんだからねえ」
「あなたも出来るの?」
「ああ、もちろんさ。特別に見せてやろう」
すると、妖怪は自分の腕に自慢のその牙を突き刺した。
アフラは咄嗟にルシャトリエの目を隠す。
「お、おい……何してんだよ!?」
「あたしの能力を見せてやると言っただろう。その為の手順さ」
「ねえアフラ!手話してよ!なんで隠すの!?」
「お前がぴーぴー泣くからだよ。ちょっと黙ってろ……あ"ぁ"!?」
溢れていた血が、突然傷から飛び出すのを止めた。
いや、"血が止まった"というよりも"傷が塞がった"という方が正しい。
「な、なんだ!?怪我が治っていく……」
いつの間にか、ルシャトリエの視界を遮るものもなくなっていた。
一気に眩しくなったせいで、本人はまだ目を開けてはいないが。
「これがあたしの能力。治癒や再生を瞬時に行うことができるのさ。核を付かれちゃ終わりだがね」
どこからか取り出した布切れで血を拭く。
露わになった肌には、傷跡さえも残ってはいなかった。
他の部位と変わらない綺麗な肌だ。
「ま、魔法か!?妖怪ってのは魔法が使えるのか!?」
「まほう?なんだいそれは?なんだか知らないが、これは妖力を使った能力さ。妖怪だけの特別な力」
背後では、ようやく光に目が慣れたルシャトリエが、いーなー!と目を輝かせている。
アフラも例外ではない。
魔法や能力などは誰しもが一度は憧れたものなのだから。
それを見ることが出来るなど、天地がひっくり返ってもありえない。
しかし2人……いや、アフラはそれを目の当たりにしたのだ。
はしゃぐのも無理はない。
「なあ、その妖力使って俺らを元の世界に帰すのは無理なのか?」
「不可能だね。あたしはこの能力にしか妖力を使えない。空間を自由に行き来することは、そう簡単にはできないさ」
「じゃあ私達、お家に帰れないの?」
「帰れなくてもあんまり問題はねえよ。あっちに置いてきたものなんて何もないからな」
きっとこの言葉は自分に言い聞かせているのだろう。
アフラの顔は戻りたいと言っているし、ルシャトリエもうつむいていた。
故郷を捨て、見知らぬ地に突然住めなどと言われて不安がないわけがない。
「……安心しな。あたしがあんたらの面倒を見てやる。暇つぶしには丁度いい」
優しい笑顔を浮かべて吐露した。
それはまるで本当の母親のようで、慈愛に満ちている。
「妖怪は人を襲い、終いには喰らうと聞いた。そんな恐ろしい奴に世話なんざされたかねえよ。俺らは2人で生きていく!!騙そうったって無駄だ!!」
当然の反応……とは言い難いかもしれない。
決して平和ではない道を歩んできた者だからこそできた反応。
普通の人ならば、精神的に参っている中ここまで警戒心を剥き出しにすることは不可能に近いだろう。
「随分と警戒されたもんだ。構わないけど、この世界には妖怪がうようよいるよ。そんな中2人だけで生きていけるかねえ?」
「きっと私達のこと食べたりしないよ!!だからお世話になろうよ!!」
「そうやってまた家族増やして、悲しむのは俺らなんだぞ!?」
アフラはとても真剣で、悲しい目をしていた。
それは2度も家族を失ったルシャトリエのことを思っているからこその言葉。
「あっはっは!ひ弱な人間風情とひとくくりにしてくれるなよ。あたしら妖怪の寿命は長いよ。事故でもない限りあんたらをおいて死にやしないさ」
「ほんとに!?ほらアフラ!大丈夫だよ。もう誰も居なくならないよ」
「どうして……なんでお前は正常でいられる!?俺は親を亡くしただけでも耐えられないのに……お前は、お前は……」
アフラの目からは涙がこぼれていた。
兄としてしっかりしなくてはいけない、落ち込んでなんていられない。
なのにこんなに苦しい自分が馬鹿みたいだと、ルシャトリエがそう思わせている。
そしていっぱいになった気持ちの行き場が無くなり、涙として外に溢れ出ているのだろう。
「だって私には、アフラがいるから。また独りぼっちにならなかっただけ幸せなんだって思ってるよ」
「リエ……うぅ」
「さあおいで、坊や。あたしの腕の中で気が済むまでお泣きよ」
その後しばらく、アフラの鳴き声が静かな森の中で響いた。