幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第12話

王女であるシャンから、伝説の石、幻石を守る5人の人を探すという勅命を受け旅をしている白姫、ベネジクト、真騎、レストの4人。
しかし幻石の守り人とは幻石そのものであったことが判明する。
最初の守り人、時を司る幻石である時節 詩貴(じせつ しき)を仲間に迎え入れ、駄々をこねる白道をなんとか引っぺがし、歩みを進めていた。


第12話「いざ!2の島へ!」



「船が出港したばかりだったとは……完全に頭にありませんでした……」
「うちの魔法があってよかったねー」
港についた時には丁度船が出港した頃。
歩いて6の島まで引き返す訳にもいかず、ベネジクトの草魔法を使って帰ってきたのだ。
「城に顔でも出したいところですが、急がなければなりませんのでもう2の島へ行きますよ」
「えぇー!?ちょっとでいいからさー買い物しーたーいー!!」
「駄目です。旅が終わってからにしてください」
ちなみに詩貴は石の姿になり、レストのポシェットの中に入っている。
レストは常に真騎の背中で寝ているため、実質真騎が持っていることになるが。
「真騎のケチー!!いいよ行こう!2の島でしょ!!」
頬を膨らませながら、またもや先陣を切ったベネジクト。
残りの3人はそれを追いかけ、無事に2の島門《ツーゲート》を通過した。



6の島と2の島都心部《ツーエリア》を繋ぐ道の途中。
大きな魔物が道を塞いでいた。
さらにそれは今にもこちらに襲いかかろうとしている。
「何よやろうっての?雑魚に用はないんだよねー」
杖を構え、魔法を発動させようとした瞬間。
「……だめ!!」
「えっ!?あっ!」
突然レストが起床し、攻撃を止めさせた。
しかし止めきれず、放たれてしまった小さな火魔法が魔物の方へ飛んでいった。
腕の立つ魔法使いだからか運が悪いからか、真っ赤な火の玉は魔物へ直撃した。
「あ、やば……」
魔物の毛皮を瞬時に焦がし、その部分だけ皮膚が露出している。
それに気づいた魔物は、さらに怒りを増幅させた。
そして襲ってこようとしたその瞬間。
何故かピタリと動きが止まった。
「え?止まった……?」
「お主が何かしたのではないのか?」
「うちは何も……」
真騎がやったのかと、2人は少し後ろにいた真騎を見る。
と、そこには普段寝ているだけのレストが立っていた。
「その子は僕のお友達……わざとじゃないって言ったら許してくれた」
「え?あんた何も喋ってないじゃん?なんで?は?」
「……お話しできるの。頭の中でお話しするの」
頭の中で、とは所謂テレパシーのようなもの。
レストは魔物の思考を読み取ることができる生まれながらの才能を持っているのだ。
その上空間能力にも長けており、首からぶら下げている笛で、契約を交わした魔物を召喚することができる。
シャンがレストを選んだのもこの為だろう。
しかし純血のシルフでありながら魔力が少なく、草魔法の威力はとても弱い。
「じゃあその魔物は今何て思ってんの?」
「……驚かせてごめんね。僕が捕まってると思ったって……」
「勘違いにも程があるのぉ。人さらいだと思われておったとは」
申し訳なさそうにする魔物。
その仕草はまさに愛くるしいペットそのものだ。
「魔物騒動も収まったことですし、先に進みましょうか」
「……ばいばい、またね」
「もっと笑顔で言えばいいのに。子供らしくさー」
レストは、思い出したように真騎の後ろに隠れる。
彼は女が苦手、故に真騎にくっついているのだ。
ベネジクトの家に言った時も、彼女の母親から泣きながら逃げていた程に。
「警戒心薄れるのいつかなあー」
「しばらくそばに居ったところで変わらんだろうな。根本的な問題を解決せねば」
未だに会話もままならない2人。
レストはほとんど寝ているため、そもそも話す機会があまりないが。
4人は魔物と別れ、2の島都心部《ツーエリア》へと歩みを進めた。


「ちょっと待って長くない?遠くない?」
「もうすぐ日が暮れそうだのぉ」
「また野宿コース!?やだー!!」
あれからだいぶ歩いたが、なかなか目的地へと到着しないまま日が暮れようとしていた。
そして例外なく駄々をこねるベネジクト。
「仕方なかろう。着かんのだからな」
「ベッドで寝たいなんて言わないからー!建物の中で寝たいー!!」
「なんだか申し訳ないです……」
「えっ、謝られたらうちが何かしたみたいじゃん!?」
きっときちんと計画を立てられなかったことを申し訳なく思っているのだろう。
真面目で優しい真騎だからこそ零れた一言だ。
「僕のお友達呼ぶ?」
「え?友達?」
珍しく起きていたレストから、これまた珍しく提案が出された。
当の本人はとても眠たそうにしている。
「テントムシ……お腹の中で寝れるの」
「気持ちだけいただいとくわ……」
ベネジクトのわがままも収まり、その日は何事もなく眠りについた。



「あれではないかの?2の島都会《ツーエリア》は」
1の島都会《ワンエリア》よりも発展していない、自然に近い地区。
その理由は生態系にある。
魔物や妖精が多く住み、進んだ文化を持った人間が極端に少ないのだ。
それ故に人間の方が立場が弱く、魔物や妖精に適した環境、自然が多い作りになっている。
異世界からやって来た人間が一番に来る2の島に、何故人間が一番生息していないのかはいろいろな説がある。
ちなみに2の島の長は妖精シルフである。
「ここは別れて情報収集をしましょうか。お昼頃に、そうですね……あの木の前に集合でいかがでしょう?」
真騎が指さしたのは、一際目立つ大きな木。
大昔からある2の島のシンボルだ。
木の葉は緑ではなく、綺麗な赤色をしている。
「おっけー。うちは向こう行くから」
「ならば我は此方を探そう」
「僕はそっち」
「決まりですね。ではまた後程」
数日間離れることのなかった4人が、初めてバラバラになった。
果たして情報を得られるのは誰なのか……。



真騎が来たのは人気の少ない森の近く。
唯一あった民家の前に、1人の女性が居たからだ。
薄い黄色の短い髪に、紫に輝く目。
何かに一生懸命に祈っているらしい。
その佇まいは儚げで、今にも壊れてしまいそうだ。
「あの……少しだけお伺いしても宜しいでしょうか?」
「私……ですか?」
「はい。幻石を探して旅をしているのですが、ご存知ないかと思いまして」
普通なら笑われるところだが、女性は当然のようにそれに答えた。
「すみません……私にはわかりかねます。そうだ!うちの書庫に古い書物がありますので、その中にあるかもしれません」
「見せていただけたりしますか……?」
「はい。もちろん」
二つ返事で了承した女性は、真騎を書庫の方へと案内する。
決して綺麗とは言えない家の外観とは裏腹に、中の造りは美しく整えられていた。
「申し遅れました。私は光闇 真騎という者です。先程申し上げた通り、現在は旅をしております」
「私はオラシオンと言います」
互いに会釈し合う。
まるで他社の人に会う会社員のようだ。
「……あの、この写真は……」
「ああ、それは私が産まれた時に撮った、家族全員の最後の写真です。姉と兄は、小さい頃に人攫いにあったらしくて……今も行方不明なんです」
「もしかして、オルコとレイバーと言うお方ですか?」
「な、なんで知って……!?」
オラシオンは目を見開いた。
赤の他人、それもついさっき知り合った人に、教えてもいない身内の名前を当てられたのだ。
「合っていましたか!先程あなたを見つけた時から、2人と似ているなと思っていたんです。それにこの写真、お2人ともほとんど変わっていませんよ」
「今どこに!?生きているんですか!?」
真騎にグイッと近づく。
とても真剣で、ほっとしているような悲しげなような表情をしている。
「今はアレス城で働いていらっしゃいますよ。オルコさんは攻撃部隊育成長、鬼教官として有名です。レイバーさんは攻撃部隊隊長、とてもお強いんです。逆に言うと、取得はそれだけですが……」
「良かった……良かったです……」
「え!?あの、えっと!と、とりあえずこれどうぞ!!」
泣き出したオラシオンにハンカチを渡す。
誰もいない家の中なのに、キョロキョロとあたりを確認する真騎。
それは果たして視線を気にしているのか、助けを求めているのか……。
「すみません、泣いちゃって……」
「い、いえ!それだけずっと想っていらしたんですよね。2人に話したらきっと喜びますよ」
「……城に行けば会えるんですよね?」
「はい。ですが入城許可証がないと……そうですね、紙とペンはありますか?」
少し待っていてくださいと言いながら、オラシオンは奥に消えていった。
慌てて探しているのかドタバタと音が聞こえてくる。
バンダナを少し乱して戻ってくると、机の上にそれを置き、真騎を椅子へ誘導した。
「入城許可証……これを所持している者は特別に入城出来るものとする……発行者、光闇真騎……と」
「あの……もしかしてこれって」
「もちろん、あなたが城へ入れるようにするための物ですよ。最後に印を押せば完成です」
城であれば許可証専用の印鑑を押すが、出先で発行する時は代わりに魔法を押すのだ。
指先に力を込めて紙に押し付ける。
許可証を発行出来る者にしか使えない魔法だ。
真騎の場合は黄色に輝く印ができる。
「どうぞ。どうかお2人にあってあげてくれませんか?」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます……!!」
「いいえ、貴方の喜ぶ姿を見る事ができて私も嬉しいです。それに書庫を見せていただくわけですからね。ほんのお礼ですよ」
城の警備が心配になるほどあっさりと許可証を発行した真騎は、その後整理整頓されていない書庫を見てまた仕事をしたそうな……。