幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜その他の愉快な仲間たち〜 第2話

さっき真騎と通信した時、俺の……俺らの家族が2の島に住んでいるのだと報告された。
会いたくない訳じゃない。
が、今更会ったところで何が起こるわけでもない。
もう顔も名前も思い出せないのだから。



第2話「囚人の人生」



「おいレイバー!!シャン様から聞いたぞ。あれは本当か!?」
「あぁ。昨日俺も真騎から聞いた。あいつが嘘つくわけない」
このちっこいのは俺の4つ上の姉貴、オルコ。
そこらのガキと混じってても違和感がない程小さな身体からは想像もつかないくらい、大人で、強くて、俺と違って頭の回転も早くて、誇れる姉貴だ。
ただとても厳しい性格で、俺は嬉しいが他人には恐れられている。
あの罵声たまんねえんだよなあ!
攻撃部隊隊長の俺と違って、姉貴は攻撃部隊育成長をしている。
いわゆる俺の部下を育てる役職だ。
姉貴のおかげで強い奴らがたくさんいるけど、平和ボケしたこの世界に攻撃部隊なんてあまり意味がない。
「お前は行きたいか?」
「行きたくないと言えば嘘になる。けど、何も覚えてないしな……」
「大丈夫じゃないか?親父たちの方は覚えてるさ」



俺らは子供だけを狙った人さらいにあった。
拐われたのは俺が6歳、姉貴が10歳の時。
妹がさらわれなかったのは、産まれたばかりだったからだろう。
その後の生活はとてつもなく酷かった。
そこはこれから住む場所と思えないくらいボロくて、そいつは俺らにいつもきつく当たった。
毎日働かされ、食事は1日1回の小さなパンのみ。
教育もろくに受けていなかった俺らに、当然実家を調べる術なんてなかった。
今思えば、嫌がってないでちゃんと勉強しときゃよかったな。


それから数年が経ち、さらわれたみんなで脱走計画を立て、無事に成功させた。
リーダーは姉貴だった。
しかし脱走したところで行く宛もなく、まだ子供だった俺らは働けず、盗みを犯して生きていた。
大人になってももちろん誰にも雇ってもらえなくて、この盗賊生活は続いた。
いつの間にかそこそこ名の知れた盗賊団になっていて、俺らを見るだけで人々は食料を差し出した。
その頃の俺らには罪悪感よりも優越感が勝っていて、平気で罪を犯した。


確か俺が20ちょっとくらいの時だ。
今から約10年前だな。
恐れていた地下牢行きが実現してしまったのは。
当然の報いだと、俺と姉貴、他数名は大人しく連行された。
何人かは逃げてたらしいけど。
薄暗くてジメジメした地下牢。
それに反して、そこは本当に罪を犯して捕まった者達なのか疑うほどいい奴らばかりだった。
でも話を聞いていると俺らより罪が重くて、刑期なんて比べ物にならない奴もいた。
連続殺人、城への無断侵入、あとは……忘れちまったけど。
なんでいい奴らばかりなのか不思議に思っていたが、そんな悩みはすぐに解決した。


ある日、飛んできた刃物が俺の鼻の頭をかすった。
もちろん牢屋に入っている時だ。
その後カツっと音を立てて、刃物が壁に突き刺さっていたのと、ゾクッとしたのをよく覚えている。
そしてこの言葉も。
「こんなものもよけられないのに、よく名が知れわたっていたものですね。なんと言うか、残念です。期待はずれでした」
「ガキがこんなところに何の用だよ」
「口の聞き方がなっていないようですね。躾が必要ですか?」
障害物を避けながら次々と飛んでくる刃物。
「私はシャン。この城の王女であり、6の島の長です。今日は見回りにきているのですよ」
そう、これは当時10歳くらいだったシャン様の言葉だ。
今のシャン様をそのまま小さくした感じだった。
容姿から性格から全て。
違うところと言えば威厳くらいだろうか。
俺にはこの時の方があったように思える。
記憶に修整がかかっているだけかもしれないが。
「なんだ、王女様かよ。安心しろ、逃げやしねえよ。ってか逃げらんねえし」
「あなたは脳筋ですか?私ならこんな牢屋、すぐに出ますけどね」
ませたガキだなと思った。
でもその姿は怯えているようにも見えた。
強がっていたから、キツい言葉をかけたのかもしれない。
「けど脱獄すれば刑期が伸びんだろ?そんな馬鹿な真似はしねえよ」
「利口な犬ですこと。ねえお兄さん、出所したら帰るところありますか?」
「あぁ!?んなこと聞いてどうすんだよ、どっか行けぇめんどくせえ」
今思うと、いくら子供とはいえ王女であるシャン様にとても失礼だったと思う。
もっとも、シャン様はそんなこと気にするような人じゃねえけど。
「宜しければ、城で働きませんか?攻撃部隊なんてとてもお似合いだと思うのですが」
「喧嘩売ってんのか?」
「いいえ。本気です」
城で働けるなんてほんのひと握りの奴らだけだ。
願ってもないチャンス。
手に職つけれるんだからな。
だが他の仲間は?俺だけ抜け駆けすんのか?
姉貴は……?
「……先ほどオルコさんにお会いしました」
「!?」
「優しいお姉様ですね。羨ましい限りです。あの方が私になんと仰ったと思いますか?」
検討はつく。
普段は鬼のようだが、根はとても優しい人だ。
きっと……。
「『私は構わないから、他の奴を雇ってやってくれ。だいたい、あいつらをこんなんにしちまったのも私のせいだからな』と。それであなたに伺いに来たのです」
「こんな戦うことしか能のねぇ俺よりも、頭のキレがいい姉貴の方が何倍も役に立つ!俺はいいから……」
「押し付け合いですか?あなた何か勘違いしていません?」
シャン様は後ろに手を回し、首を傾ける。
勘違い?どういう事だ?
「部隊ですよ。それも大勢の。戦力が増えるんですから、1人しか採用しないなんてもったいないことしません。人は選びますけどね」
ニコッと女神のような笑みを浮かべながら言い放った。
ああそうか。盲点だった。
でもそれなら、何故姉貴は断った?
「オルコさんには、攻撃部隊の隊長に誘ったんです。今の隊長、少し気に入らないもので……それにあなた達の方が経験は豊富そうですし」
最初の方でも言ったが、この世界にはこんな部隊なんて居なくても平和に過ごすことができる。
つまり実践経験のある奴は少ないのだ。
しかし俺達は盗賊、当然他の盗賊とやり合うこともあった。
「……何故俺を選んだ?他にもたくさんいるだろ」
「何故でしょうね。私はあなた達のこと微塵も知りませんが、悪い人には見えないのです。あなたとオルコさんは特に」
俺はこの時悟った。
この人についていけば、俺は変われるんじゃないか?
正当な人間になれるんじゃないか?
周りの悪人がいい奴に見えるのも、きっとこの人のおかげ。
具体的にどうだからとか、俺は馬鹿だからわからないけど、そう確信していた。
「わかった……いや、わかりました、シャン様。ここから出られた時、俺はあなたに一生命を尽くしましょう」
「ふふっ。その言葉、しっかりと心に刻んでおいてくださいね」
そう言うと、檻の隙間から細い手を伸ばし、俺の顔に魔法をかけた。
青色、水魔法だ。
「もうこんなヘマしないでくださいね」
回復はされたものの、魔法は苦手だったのか今も痣が残っている。
その後無事出所した俺は、攻撃部隊に入隊し、今に至る。
姉貴も言い負かされたようで、最初は部隊長に任命されていた。
その後は俺の出世とともにその座を降り、育成長をしている。


「サージャはん、お客様が来てはります。レイバーはんに用があるようですわ〜。どないします?」
「あなたが通達とは珍しいですね、浅葱さん」
「丁度通りかかったんですわ。えらいあたふたしてたんで助け舟出したっただけです」
「もしかして光闇さんが仰っていた方ですか?」
「お察しの通りですよ。証拠に黄色い印押された手紙持ってはりましたし」
「それならば私が"彼ら"に伝えておきましょう。あなたは客間に案内なさい」
「御意。ほな行きましょか、お嬢さん」


何故か俺と姉貴に客が来てるとの知らせを聞き、客間に向かっている。
誰だぁー!?俺らに知り合いなんて!
「百面相してるぞレイバー。そう気を張るな」
「んなこといったってよぉ!初めてだぜ!?」
いつもと変わらない姉貴。
すげえなあ、なんで冷静で居られるんだー!?
思考を巡らせていると、あっという間に客間の扉の前に着いた。
来てしまった……中に居るのは……?
コンコンっとノックし、返事を乞う。
『レイバーはんですかー?入っていいですよー』
何故か浅葱の声がして、それに答えるように俺らは中に入った。
中にいたのは、金髪と紫色の目を持った女性。
「この2人が、探しとった人物でっせ。オラシオンはん」
浅葱がその名を呼んだ時、ある人物が脳裏をよぎった。
今までずっと忘れていたひとりの人物。
俺の、俺達の、世界でひとりの……。
オラシオンって……お前まさか」
「覚えててくれたんですね……良かった……本当に……」
彼女はその場で泣き崩れてしまった。
「わざわざ会いに来てくれたのか……?」
「はい……光闇さんと別れた後、すぐに出発の準備を始めました。早く会いたかったから」
「言ったろレイバー、気を張るなと。オラシオンも、ありがとな。親父達は元気か?」
「はい。とっても元気ですよ!」
知らせを聞いてからわずか一日。
こんなに早く会えるなんて思わなかった。
世界でひとりの俺達の妹、オラシオン
微かに残る記憶には、泣きわめいていた小さな体しか無いけれど、今まで一緒に居たような感触がある。
「ずいぶん大きくなってんな!姉貴とは大違痛い!!」
「黙れクズ。それは記憶補正のせいだ」
「大丈夫ですか!?!?」
「こんなくらい何ともねえよ。寧ろ嬉しい」
「それ実の妹に引かれるんとちゃいます?」
「それはそれで良い!!」
「良いのか……」
ふふっとオラシオンが笑った。
本当にずっと想ってくれてたんだな。
俺は忘れていたのに、なんだか申し訳ねえや。
「兄さんと姉さんの安否が確認できた上に、こうやって会えて話せたこと、とても嬉しく思います。今度は家に帰ってきてくださいね。父さんと母さんも待ってますから」
「あぁ。時間が出来たら2人で押し掛けるさ」
「楽しみにしててくれって伝えといてくれよ!」
「はい!」
急に来たせいであまり時間が無いらしく、あっという間にお別れの時間。
約25年ぶりに姉貴以外の家族と会えただけで、生きていて良かった、ここに居て良かったと思えてくる。
「せや、3人で写真撮りはったらいかがです?わいが撮ったりますよ」
「本当ですか!?お願いします!」



「今日は楽しかったな姉貴!」
「そうだな。次は私らが行く番だ。時間作っとけよレイバー」
「それはこっちの台詞だっての。姉貴のが忙しいだろー?」
「お前が仕事サボってるからだろうが」
「はい……」
今度家に行った時も、家族全員で写真撮りたいな。
そしたら俺の部屋に2つを隣同士で飾って、毎日元気を貰うんだ。