幻石〜5つの石を探す旅〜 第14話
「そうだ!俺様が乙人!悪い奴らは俺に任せな!」
彼はそう言って決めポーズをとった。
「決めポーズもダサ……」
が、ベネジクトのお眼鏡にはかなわなかったようだ。
「さっきから聞いてりゃてめえ、俺の悪口ばっかり言いやがって!!」
「ちょっと!2人とも会って早々喧嘩はやめてください!」
周りにいた子供達はマセているのか、乙人に対して哀れみの目を向けていた。
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第14話「仮面の下の真実」
「そんで?俺に何の用?見かけねえ顔だけど……もしかして俺に会いに来たとかか!?」
「いや無いから」
「わざわざお主に会うために遠路はるばる来るわけなかろう」
「心が割れそう」
子供達に別れを告げ、場所を変えて話していた。
「あなたが物知りだと聞いたので、お尋ねしたい事があって参りました」
「おう!答えられる範囲なら何でも答えるぜ」
この態度から本当に物知りなのか目を疑うが、彼は有名な情報屋。
まるで実際に見てきたように話すのだと、居場所を聞き回っていた際に誰かが言っていた。
テレビや電話は無いので、一般人が遠くの事を知る術はほとんど無いのだ。
おそらく乙人は、そういった類の魔法を使えるのだろう。
「幻石の守り人、ご存知ですか?」
真騎が端的に問う。
それに対し、乙人は少し間を置いて答えた。
「……知らねえな」
「怪しいのう」
ベンチに腰掛けている乙人の左後ろから、顔を覗き込む白姫。
ギクッと言わんばかりに顔色を変えて、さらには冷や汗までかいていた。
「わーったよ。話しゃあいいんだろ。けどその前に……そこのガキの鞄の中に入ってる石、見せてくれよ」
ニヤリと笑い、レストの鞄を指差す。
この中に入っている石、それは時の幻石。
しかし幻石を持っている事も、鞄の中に石が入っている事さえ話してはいない。
「これですか?どうぞ」
幸い青色をしているので、スペルストーンや宝石の類いと間違えてくれるだろうと、乙人にそれを差し出した。
むしろここで出さなかった方が怪しまれると判断したのだ。
「きれーな石っころだなー!……なんで俺がそこに石入れてんのわかったか知りてえか?」
せっかちなのか答えを待たずに立ち上がり、走り去りながら言い放つ。
「ヒーローだからさ!これは持ち主に返させてもらうぜ、泥棒さんよぉ!!」
向かった先は森の方。
ルボワが帰されると言っていた2の島森林《ツーフォレスト》だ。
「あいつ!何を根拠に泥棒扱いしてるわけ!?追いかけるわよ!!」
迷うことなく、4人は乙人の後を追った。
ツーフォレストの入り口を無事通過し、しばらく進んだ頃。
何十分か歩いてようやく異変に気づき始めた。
「ルボワさんが仰っていた通りですね」
「森だからってのもあるけど……でも絶対あの木さっき見たもん!!何ここ!?」
進んでも進んでも同じ道。
一本道をただ真っ直ぐ進んでいるだけなのに何故かぐるぐると回っている。
「そうだ!みんなここでストップしててよ。うちだけ先に進んでみるからどうなったか見てて」
走って進むベネジクト。
言われた通り見ていると、突然何かに呑まれていくように姿を消した。
魔法を使う素振りは見えなかった為、おそらくそれではない。
そして消えたベネジクトが現れた場所は……。
「はぁ!?何であんた達がいるの!?」
「お主が居ろと言ったのだろう」
つまりまとめると、前に進まない原因は空間の歪みのせい。
一定の場所を通り過ぎると、後ろにワープしてしまうのだ。
ワープしている感覚はもちろん無い。
「こりゃ同じ景色なわけだわ」
「……何故彼奴は通れたのかのう?」
「そういやそうね。どっか隠れてるとかだったりして」
辺りを見回してみるが、人影すら見つけることはできない。
「これでは取り返せませんね……」
「彼奴め、見つけたらとっちめてやるわ」
「今回は白姫に賛成」
何度も何度も挑戦してみるが、やはり前には進めない。
するとどこかから聞き覚えのある声が聞こえた。
低すぎず高すぎず、少し中性的なそれは、あたりに響き渡る。
「よーうお前ら。ぐるぐるぐるぐるループしてよぉ、まるで檻の中の魔物のようだな。その先に行こうとしたって無駄だぜ。何したってな」
「貴様、何処に居る!?」
「探してみな。てめえら得意だろぉ?人探し。とくにそこの女ぁ、ベネジクトつったか?全属性使える魔法使いじゃねえか。魔法使ってみろよ」
続けて笑い声。
情報屋の名は伊達ではないようだ。
しかし今の四人にとって、乙人が何故ベネジクトの名前や素性を知っているのかなどどうでもよかった。
「いい度胸じゃん、でもさ。うちはまどろっこしい事は嫌いなんだよね!!火魔法その25!!!」
辺りの木々は真っ赤に燃え盛り、ベネジクトの髪色もまた、真っ赤に燃え盛っていく。
しかし残ったのは木の灰だけだった。
「何処に居んのあいつ!?」
「落ち着いてくださいベネジクトさん。あぁ、こんなに燃やして……」
「早う鎮火せねば大騒ぎになるぞ」
「わかってるわよ。水魔法その6」
何処からか現れた大量の水で、それ以上火が燃え移る事は無かった。
「しかし今の火で目印が出来た。何処で戻されるかがはっきりと分かるのう」
「そんなこと分かったって戻されるもんは戻されるじゃん」
「まあ見ておれ」
またも全員で進む。
そして何度か繰り返すうちに、とある異変に気がついた。
「ちょっと違うね」
「うむ。毎回戻される場所が微妙に違う」
「まさか気づいて居たんですか?」
「違和感があったくらいだ。周りの木々にな」
燃やされたことにより外観ががらりと変わったおかげで、景色の違いがわかりやすくなったのだ。
ワープするので、当然景色が突然変わる。
その境目が毎回違うのだ。
白姫が違和感を抱けたのは、おそらくずっと木々に囲まれて生きていたから。
「少し試したい事がある。皆我に捕まっておれ、離れるでないぞ。音も発さぬ事だ」
そう言ってまた歩き出す。
そしてまた消えた。
しかし見えてきたのは、先程とは違う開けた景色。
「え?え??なんで!?!?」
「言ったであろう。離れるな、音も出すな、と。消えたのだ、彼奴の視界から」
白姫の能力は透明になる事。
つまり消える事。
自分に触れている相手も消す事ができるのだ。
「どういう事ですか?それにいったい誰の視界から……」
「おいそこの白いの!!白道のせがれだな!?」
「元凶のお出ましだな」
どこからともなく登場した乙人。
やって来るや否や、すぐに白姫に突っかかる。
「あの、説明を……」
「あぁん!?んなこたぁ今どうでも良いんだよ!黙ってろバナナ!!」
「バ、ナナ、あ……」
とてもショックだったのか、真騎の魂は抜けかけて固まっていた。
全身真っ黄色から連想したのだろう。
「答えろ牛乳!!」
「何故お主は食い物にしか例えられんのだ……そうだ。数日前知ったばかりだがな」
「てかなんで!?知り合いなの?なんであんたがあの人の事知ってるわけ?」
2人の会話に割って入り、一方的に質問する。
それに対して乙人はこう答えた。
「言ったろ、俺様はヒーローだ。色んな事知ってんのさ……なんてもうおせえか。知り合いだぜ。昔っからのよ」
「と、とりあえず、その石返してください!」
「やーだね。俺が元の場所に返しといてやるよ。持ってるってこたぁ話したんだろ?姐さんと」
「あなたやっぱり知ってたんですか」
「たりめぇよ!俺様がてめえらの探す幻石だからなぁ!」
一呼吸間を置いて、ベネジクトと真騎の驚嘆の声が続いた。
「気づいておらんかったのか……」
「とんだクソガキだと思ってたもん。こんなやつが幻石でいいわけない!!」
「どうだ思い知ったか凡人ども!俺様のいってぇ!!」
いつの間にか石から戻っていた詩貴の扇子が当たった。
ここは安全だと察して出てきたようだ。
その拍子で乙人の仮面が外れた。
「黙りなクソガキ。何してるかと思ったら、あんたあんな事やってんのかい」
「っせーな!俺が何しようと勝手だろ!?姐さんは白道と居るから良いかもしれねえけどよ!俺は暇なの!!」
「ねえちょっと待って……あんた女の子だったの?」
仮面の下の素顔。
紫色の目はタレ気味でまつ毛は長く、眉毛も綺麗に整っている。
中性的ともとれるが、性格とのギャップもありさらに可愛さを引き立たせた。
「あぁ?こらぁルシャトリエの兄貴の顔だぜ。よって男だ。てかどう見ても野郎の顔だろうが」
「ちなみにあたしは蛇穴とやらと同じ顔さ」
「え、男……泣きたい」
元々石である幻石に性別は無いため、どちらか断定する事は出来ない。
自分より整っている顔のモデルが男だと知り、先程の真騎と同じようになっていた。
「改めて自己紹介だ。顔はアフラ……だったか?だが、名前は別だ。空白 乙人(くうはく おつと)、覚えてくれよな」
「私は光闇……」
「おーっと紹介はいらねえぜ。なんてったってヒーローだからな」
「その事なのですが、何故あなたはそんなにいろいろ知っているのですか?」
「簡単なことさ。俺様は空間を司る幻石。移動なんてちょちょいのちょいよ」
実際に見てきたように話しているのは、本当に見て回っていたから。
そういう類いの魔法を使えるのではなく、空間と空間を繋いで移動し、情報を得ているのだ。
「それともう一つ。先程の道の事ですが……」
「ああ。あれは万が一の為に仕掛けてんの。今回はお前らだけにしてたけどな」
「もっとわかりやすく言って」
「いつ異世界から人が来るかわかんねえからな。だいぶ安定してはいるものの油断は出来ねえし。俺がここを離れてても遠くに行っちまわないように、こっちの奴らとは鉢合わせねえように、互いに行けなくしてるってわけ。いつもは空間を繋いでるんだが、今回は俺様が直々にお前らだけを移動させてた。見破られちまうとは思わなかったがな」
空間がどこよりも不安定な2の島。
住む世界が違う者が見つかれば大騒ぎになってしまう。
その対処として、2の島先端《ツーポイント》には行けないというわけだ。
「なんでわざわざうちらだけ移動させたの?」
「そんなん面白いからに決まってるだろ」
「おかげで通れたがのう。頭の足りぬ奴め」
「その生意気な口へし折ってやろうか」
「それはこっちの台詞だっての」
個人の空間を操っていたため、突然消えたのに頭が追いつかなかったと言ったところだろう。
情報量は多いが、それを利用することは苦手なようだ。
「今度は俺様の番だ。なんで幻石を探してる?」
そこから全員での説明が始まった。