幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第19話

爆風の跡に散らばる血痕。
転がる死体や地面に刺さる刀や杖。
戦場、それ以外の言葉では形容し難い空間。
その中央で、またも命を懸けた決闘が行われている。
1人は刀、1人はお札。
互いの眼はバッチリと獲物を捉えていた。

 

第19話「深碧のカンフーレディ」

 


ボロボロな青梅に対し、傷一つない水無月
未だに爆風を抜ける突破口は開けていないようだ。
「爆発ばかりじゃ芸が無いんじゃなかったの?」
「量より質を選んだだけだよ。現に僕は無傷なわけだからね」
次こそは、と青梅は水無月にじりじりと近づく。
それを読み取り水無月はじりじりと後ずさる。
そして後ろがつかえた時、一気に走って爆発に巻き込まれる。
その繰り返しだ。
いくら速く走っても、それに合わせて呪文を唱えられてしまう。
そもそも呪文が"爆"の一言なのだから、合わせるまでもない。
「いい加減学んだらどう?おねーさんは僕には勝てない。届かないんだから」
「……」
「言い返せないくらい切羽詰まってる?」
「言い返さないだけだ」
今度は刀を薄く黄色に光らせ、それを自分に向けて突き刺した。
「え?……あは、あははは!!人から殺されるくらいなら自害するってこと?侍魂がすごいねおねーさん!!」

侍とは、忍以外に戦力を有する者の事を指すこの村特有の職業だ。

青梅以外にも青梅が引き連れている者達、桜樹や夜桜等がこれにあたる。

忍と大きく異なる点は武器を主に用いて戦闘する所だ。

「……経験不足が仇になったな」

「は?」
己の手で貫かれた腹部から血は一滴も出ていない。

それどころか、今まで出血していた場所からの血も止まった。
「深光術、原点回帰!」

刀を引き抜いた後に、傷口は無い。
傷という傷全てが塞がって全回復している。
「ひゅ〜!そんなすごい魔法使えるんだね!でも回復しただけで解決した訳じゃないでしょ」
「そう思うか?」
挑発するように刀を構える。
それにまんまと乗っかる水無月は、先に動いて爆発を仕掛けた。
また飛ばされたと思いきや、爆風の中から青梅が飛び出し、水無月の頬を刀が掠めた。
「何!?」
「大して生きてないガキ1人に、遅れをとるわけ無いでしょう」
「ふふっ頬を掠っただけじゃないかっ!」
今度は違ったお札を取り出し、紫色の衣を纏わせ飛ばした。
見切って避ける青梅を他所に、お札はそれより遠くへとたどり着いた。

危機を感じとり青梅がその場から離れようとした時にはもう遅かった。
「吸い込まれ……!?」
「底なしの闇へ封印してあげる!ばいばいおねーさん!!」
と、その瞬間。
水無月と青梅の位置が入れ替わった。
否、素早く水無月の元へ走った青梅が、水無月をお札の方へ突き飛ばしたのだ。

「なんで……!?」
「封印されるのはお前だ。その底なしの闇とやらでぐっすり眠るといい」
「……す……殺す殺す殺す殺す殺す!!絶対殺してやる!!」
「殺すだなんて軽々しく口に出すものじゃないよ」
そのまま吸い込まれ、後にはお札だけが残っていた。
お札の紋様が変わり封印された証が印されている。
「ごめんねみんな……後のことは任せて」
そう言って踵を返すと、見知らぬ人物がそこに立っていた。

色白の肌によく映える深緑の髪を2つのお団子にして纏め、白いチャイナ服を着ている。

耳や髪の色を見る限りシルフの少女だ。
「遅かったネ……水無月消滅、確認したアル」
「また敵……!」
水無月の敵、とらせて貰うヨ」
「自分の罠にハマったのに!?」
「問答無用!」
スリットから見える綺麗な足で飛び蹴りを仕掛ける。
すぐに見切って避けた青梅が、今度は少女に刀を向けた。
「反射神経バツグンネ」
「君こそ」
それもまた避けられ、2人の間には5m程の距離が開いた。
「それで、子供がまた何しにここへ?」
「失礼ネ!私大人のレディヨ!」
「えー本当に?嘘は良くないよ、お嬢ーちゃん」
水無月の相手をしていた時とはすっかり違った対応。
余裕の現れか、はたまた緊張が解けたのか。

いずれにせよリラックスしているのには変わりない。
「もう怒ったアル!覚悟するヨロシ!!」
「ひえぇ~煽っちゃったかなあ。みんなは蒼泉様の方へ!」
「よそ見する暇ないヨ!」
5mを一瞬で詰め寄り、青梅に回し蹴りを喰らわせた。
直撃した青梅は長い距離を飛び続けた後、木にぶつかって勢いを殺した。

「うぐっ!ってて……さっき回復したばっかりなんだけどな……」
「私を舐めるからネ」
「うん、そうだね。本気でいかなきゃ君は倒せそうにない」
幾本か折れているであろう骨の痛みに耐えながら、刀を使って立ち上がる。

先ほどまでとは雰囲気が変わったのを見て取れた。
「第2戦目、開始」

 


「まだつかない?」
「まだ見えない?」

「初めて外に出たからわかんないな緋鞠(ひまり)!」
「村の隅ですら見たことないもんね緋織(ひおり)!」
未だ森を駆け抜けている緋色の双子。
兄の緋織に、妹の緋鞠。
生まれてからずっと村の中で過ごしていた2人にとっては土地勘というものが全く無かった。
頼りはただ1つ。
「「こっちだ!」」
第6感、勘だ。
故郷が存在するであろう方へひたすらに進んでいく。
自分が今どこにいるかなど気にもせず、意見がシンクロした方へと向かう。
「おい緋鞠!」
「なに緋織?」
「あれじゃないか?」
「きっとそうだよ!」

翠閃からの助けがない今確認する術は残されていない。
しかし勘は時に武器と化す。
2人の目に映ったもの、それは毎日嫌でも目に入る村の風景そのものであった。
「「とうちゃーく!」」
「やっと帰って来られたな!」
「次は青梅姉探さなきゃね!」
庭も同然の場所だ。
彼らに死角など存在しない。
故に人探しなど朝飯前だ。
「「あっちだー!」」
2人は迷うことなく目的地へと向かった。

 


「ちょこまかと……!」
「攻撃避ける、これ常識ヨ」
刀と体術。
武器を持つ青梅の方が圧倒的に有利だが、当たらなければ意味がない。
先程から仕掛けている攻撃は全て避けられていた。
高い回避能力に加えこの身長だ。
当たる確率はかなり低い。
「そんなへなちょこ攻撃怖くないネ!次はこっちから行くアル!」
「わざわざ宣言するだなんて……余裕かましちゃっていいの?」
「モチロン。今の攻防は準備するための時間。お前との戦闘、ここで終わりアル」
攻撃の構えを崩した少女は、地面に手のひらを叩きつけた。
「っ!?動けな……っ!?」
地面が蜘蛛の巣状に光ったあと、それらは捕獲網のように浮き上がり青梅を捕らえた。
さしずめ罠を踏んだ獣と言ったところだろうか。
粘着性の高い網で、もがけばもがくほど身体は縛られていく。
「だからここで終わり言ったネ。決着ヨ!」
「「深火術、活火激発!!」」
どこからか火の玉が飛んできて、青梅を縛っていた網は一瞬にして燃え尽きた。
周りの木々や青梅自身には全く燃え移ってはいない。
「緋織に緋鞠まで!?何してる!?ここは2人が来るような所じゃない!今すぐ帰れ!!」
「「やだね!!」」
「いつも後ろで見てるだけ!」
「そんなのもうお断りだよ!」
「わがまま言ってる場合か!戦だぞ、遊びじゃないんだよ!!」
木の上から地面へと着地し、青梅の目の前で構えを取った。
少女と対峙するその眼差しはとても真剣だ。
「我が名は緋織!」
「我が名は緋鞠!」
「「一心同体以心伝心!天下無敵の炎の申し子、ここに見参!」」
「絶対今決まったって顔してるでしょ!?別に決まってないからね!!」
「口上か?面白いネ。我が名は深緑(しぇんりゅ)!深碧のカンフーレディとは私の事ネ!」
「乗っちゃってるよ!!」
「「「じー」」」
「やらないからね!?」
敵同士とは思えない程息ぴったりのやり取り。

実は敵に騙されているのではと疑心暗鬼になりながらも的確にツッコミを入れた。
深緑はともかく、緋織と緋鞠は登場する度にこのやり取りをしていたので、もう何十とツッコミを入れてきたわけだが。
「ノリ悪いのー!」
「つまんなーい!」
「あんたもやるアル!せめて名前教えるヨロシ!」
「国守 青梅……って、私達敵同士なの知ってる?」
知ってる知ってる!と軽く返事をしながらその質問は流された。
すると青梅の背後から何かが飛んでくるのを感じ、すぐに伏せるよう2人に命じた。
どこにも当たらず飛んでいったそれは、しばらくして遠くの地面に落ち爆発した。
「これ知ってて注意を逸らす為にノッた、なんてことないよね?」
「私そんな卑怯しないネ!」
飛んできた方向へ振り返ると、紫色の禍々しいオーラを放ちながら地面に這いつくばる人影が見えた。
ゆっくりと立ち上がる影は紅に輝く両眼をこちらに向けている。
「殺す……殺す!殺す殺す殺す殺す殺してやる!!天才術師の僕が負けるわけないんだ!!」
「封印が解けたのか!?」
「自分の封印を破れないわけないだろ?……あはは!お前は後でだ!そこの緋色の餓鬼共を先に葬ってやる!!」
「「そっちのが餓鬼でしょ!!」」
起爆札の出処は自分の封印に捕まった水無月
結界を破壊して戻ってきたようだ。
プライドをズタボロにされたことにより、本来持っていた闇にさらに磨きがかかっている。

「厳しくなったら逃げるんだぞ!いいな2人共!」
「「青梅姉も頑張って!」」
この後待ち受けている苦難も知らず、笑顔で手を振りながらその場を後にした。
先程までいた生存者は青梅の命令で1人残らず蒼泉の元へ向かって行っていたため、この場に残ったのはまた青梅と深緑だけだ。
「いいのか?あいつら2人、水無月には敵わないネ。見殺しにするつもり?」
「あいつらには時間稼ぎをしてもらうだけだ。すぐ終わらせてやるから安心してよ」
「再度舐めてるか!?」
「いいや、本気だよ」
深緑の真正面に綺麗に構えをとる。
それはもう稽古のようにリラックスしながら。
「疑わしいアル。だったら何!?その構え!!」
言いながら深緑は青梅に一気に詰め寄り拳を入れる。
それをぎりぎりでかわし横腹に刀を入れた。
ただ、致命傷には至らない。
「峰打ち……?本気、嘘!!」
「……」
「言い返せないか?それお遊び言うヨ!」
鳩尾めがけ蹴りを一発。
しかしそれは普通の蹴りとは違い、蹴りの痛みと共に微かにピリッと全身を走るのを感じた。
「ぅぐっ……何を……」
「わかったか?感じいいアルな。食らったが最後麻痺するネ。当分動けないヨ」
「……なーんてね!!」

「なっ……力が出な……!?」

深緑が気づいた時にはもう遅かった。

青梅の刀の頭、柄の先端が深緑の心臓部分に当たった。

「深光術、光彩奪目(こうさいだつもく)」

刀は金色に輝き、青梅へと注がれていった。