幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第20話

青梅と深緑から少し離れた開けた空間。
地理的条件は緋織と緋鞠が、実力は水無月の方が格段に上。
決してフェアとは言えないこの状況で、果たしてどのような決闘が繰り広げられるのか。
「お前らはどんな風にいたぶってあげようか?」
「「実力の違いを見せつけてやる!」」

 

 

第20話「緋色の記憶」

 

 

子犬のように睨みつける緋織と緋鞠、そして成猫のように余裕たっぷりな水無月
もちろんそれは実力の差から来るものである。
少なからず鍛えている者には相手との力量が見えてしまうものだ。
「おー怖い怖い。そんなに睨みつけないでよ、おにーさん達」
「おにーさんって言われた!」
「歳下の自覚はあるんだね!」
今まで最年少として扱われてきた2人にとっては喜ばしいことなのである。
最年少どころか実力でさえ最下位なのだから。
「何もしてこないの?それとも何もできないの?だったらお手本見せてあげるよ!!」
袂からお札を一枚取り出して口元へと運ぶ。
純白のお札は水無月の息吹によって黒炎と化した。
右の手のひらでゆらゆらと漆黒の炎が燃えている。
「おにーさん達が得意なのは火魔法だよね。隠す気ないでしょ、忍なのに」
「火魔法じゃねえし!」
「深火術なんだけど!」
聞く耳も持たず、右手に携えた黒炎を2人に向かって放り投げる。
投げ出された炎は2人の手前で大きく広がった。
「「なにこれ!?」」
「反応がいちいち初々しくて面白いね」
あはは、と水無月が笑う。
そして広がった炎はやがて2人を包み込んだ。
「その炎みたいに黒く燃えちゃいな!」

「やっぱり無理なのか?」

「私達は役に立たない?」

炎は静かに、豪快に、二人を燃やしていく。

 

 

数年前。

親の勝手な都合で捨てられた双子がいた。

緋色の髪と眼が賑わっている商店街でも一際目を引いている。

「こらーー!!こんの泥棒猫!!」

ぼろぼろの着物にボサボサの髪、さらに痩せこけた体は貧しさを象徴していた。

しかしその双子は軽い身のこなしで人の目をくぐり抜けて逃げていく。

そして細い道を曲がったところに身を潜めやり過ごす。

遠目からでも目立つ炎の髪も眼も、日の当たらないこの場所なら目立つことはない。

なんとか撒いたところでようやく一息ついた。

手にはたった1つのりんご。それを2人でうまくわけてかぶりつく。

こうやって今まで生きてきたのだ。

「美味いな!」

「そうだね!」

双子は互いを生きる糧としてこれまで頑張って生きてきた。

いつもならこの後森で静かに眠るところなのだが、今日は少し違う出来事が起きた。

「おい、そこで何をしている?りんご泥棒」

双子は警戒心をむき出しにして突然現れたその少女に威嚇する。

「悪かった、そう警戒するな。私は何もしないさ。……さっきの行動を見る限りお前ら孤児だろう。行く宛がないならここへ来ると良い」

言いながら、いつの間にか文字を書いていた一枚の紙を手裏剣で壁に打ち付けた。

隣を共に歩いていた紫色の少年も、双子と一緒に目を丸くする。

「いいのか?素性もわからない奴らだぞ」

「構わない。お前も見ただろう?きっと役に立つ日が来る。私は蒼泉(あおい)だ、覚えておけ」

「あ、俺は桔梗(ききょう)な!」

「「……」」

「また会えることを楽しみにしている」

それだけ言い残し、謎の2人組はその場から文字通り消えた。

辺りを見回すがどこにも姿は見当たらなかった。

「「消えた!?」」

その場から消える。

この村ではそこまで珍しいことではないのだが、隠れて暮らしている2人には新鮮だったようだ。

次に視線をやったのはもちろん壁に打ち付けられた紙切れ。

そこには簡単な地図が描かれていた。

その紙切れを手に取ろうとすると、刺さっていた手裏剣が水になりこぼれ落ちてしまった。

「「水になった!!」」

確かにたった今までは手裏剣の形をとっていた。

しかしこれもさほど珍しいものではない。

なぜならこの村には忍と呼ばれる魔法使いに似た者が住んでいるのだから。

村を警備しているのも忍、結界を張っているのも忍。

もはや忍なしでは成り立たないのだ。

「そこにいけば俺らは必要とされるのか?」

「もう毎日隠れて生きなくて済むのかな?」

2人の意思は語らずとも疎通していた。

ひとまず今日は休むため、森へと足を向けた。

 

 

「「ここがあの人のお家……」」

翌朝、昨日教えられた場所にさっそく来ていた。

ハプニングが起こることもなくたどり着いたそこは、門に警備が置かれている立派な木造の建物だ。

この村で一番偉い国府宮邸に次ぐ二番目に大きな建造物である。

見たことがない訳ではなかったが、縁もなかったため記憶にはぼんやりとしか残っていなかった。

ぼーっと門の前で目を奪われていると門番の方から声をかけて来た。

「ここはガキが来るところじゃないぞ。帰った帰った!」

その一言でハッと我に帰り目的を思い出す。

「名前なんだっけ?」

「思い出せないね!」

少しだけ2人の内緒話をしたあと、こう返事をした。

「「青いお姉ちゃんに呼ばれてきました!」」

「あおいお姉ちゃん……?」

蒼泉様のご友人か?」

間違いではないが少し勘違いされたようだ。

蒼泉は深い海のような青色の髪をしているうえに、紺に近い装束を着ていた。

さらに名前の発音があおいと同じなのだから口だけのやりとりではややこしい。

しかし結果的には通じたようだ。

「そういえば昨日蒼泉様が、客人が来るかもしれないからその時は呼んでくれ、と仰っていたな」

「なんだ伝達済みじゃねえか!はやく呼んでこい!」

怒鳴られた門番の片方はそそくさと中へ入っていった。

しばらくすると門番が戻って来るよりも先に少年と少女、桔梗と蒼泉がやって来た。

正確には突然現れた、といったところだ。

「「瞬間移動だ!」」

「瞬間移動って……ちょっと蒼泉、この子たち教養がないどころじゃないよ?」

「ああ、私も今確認した。ひとまず来てくれて感謝する。続きは中でだ」

 

 

中へ入ると、まるで迷路のような長い廊下を通って部屋に案内された。

客間のようだ。

「お前たち名はなんという?」

「ひおり!」

「ひまり!」

「へー!双子っぽい!」

1字違いの似たような名前が血筋を強調している。

「良い名だな。……さて、まずは風呂だ。新しい着物も用意させよう。桔梗」

「はいはい。用意はできてるから案内するよ。別々の方がいいかな?まだ混浴でいい?俺も一緒に入ろうか?」

半ば強引に入れられた久方ぶりのお風呂は楽しかったようで、1時間は入っていたと後から蒼泉に告げられた。

そのあと新しい着物に身を包み、伸び放題のボサボサの髪も桔梗に綺麗に切って整えてもらった。

前髪でよく見えなかった緋色の眼がキラキラと輝いている。

「じゃーん!どう?見違えたでしょ!」

「まるで別人だな」

「すごいなひまり!」

「すごいねひおり!」

互いに互いを凝視して以前の姿と見比べる。

鏡もない場所で生きて来たため、自分を見るより違いがわかった。

「さて、そろそろ本題に……」

その時、ぐううと勢いよく2人のお腹がなった。

入浴したことにより緊張もほぐれたのか空腹を思い出したようだ。

「桔梗」

「今用意するから!すぐ来るから!」

桔梗を呼ぶ声は少しだけ機嫌が悪そうだった。

 

 

「こんな美味しい食べ物初めてだな!」

「こんなお腹いっぱいも初めてだね!」

桔梗が作った料理をぺろりと平らげてしまい、机上には空っぽの皿が並んでいる。

箸もろくに使えずほとんどの料理を匙を使って食べていた。

「もういいだろう。いい加減本題に入るぞ」

「「眠……」」

「眠いなんてほざいたらどうなるかわかってるだろうな」

「「眠くない!!聞きます!!」」

背筋をピンと伸ばし、伸ばしていた脚は折りたたんで正座。

もちろん手は膝の上だ。

「……ようやく話せるな。結論から言おう、お前たちを呼び出したのは忍の素質を見出したからだ。忍とは術という力を使いこの村を護る者のこと。昨日渡した紙も水の手裏剣も、術の一種だな」

「そしてその忍をまとめるリーダーが、この家の当主である蒼泉の父親さ。つまり蒼泉は次期当主ってわけ。そしてその次期当主に目をつけられた君たちはとっても運がいいってこと。あ、ちなみに俺はその次期当主の付き人ね!すごいだろ!」

この村で二番目に偉い泡沫(うたかた)家当主の一人娘である蒼泉も、とてつもない権力を持っている。

更に彼女は権力に見合うほどの技術を持ち合わせているため、誰を拾おうが誰を忍にしようが口出しできるのは極わずかなのである。

「そんなこと俺たちにできるのか…?」

「私たちはそんな力持ってないよ…?」

「あくまでも提案に過ぎないさ。素質があると言っても必ず開花するわけではない。この提案を飲めば、これから過酷な試練が待っているしな」

過酷な試練、すなわち修行のことだ。

魔法使いとは違い、己の魔力を高めることで発動することができる術を会得するには、それなりの努力が必要なのだ。

もちろん蒼泉も、隣でのほほんとしている桔梗も、幼い頃から毎日の鍛錬は欠かさない。

「……忍になれば、俺たちは」

「私たちは、必要とされる?」

思わぬ返しに唖然とする2人。

自分が必要か否かなど考えたこともなかった、否、考える必要などなかった。

2人にはもう居場所が確立されているからだ。

しかし捨てられた過去を持つ2人にとって、存在意義などとうの昔から存在しない。

「……されるさ。現に今、私たちはお前たちを必要としている」

蒼泉の言う通りだよ。そ、れ、に!俺たちが直々に教えてあげるんだからね!強くならないわけないじゃないか。強くなればもっと大勢の人から欲しがられるさ!」

「拾った責任は必ず取ろう。それが私の役目だ。泡沫の血にかけて誓おう」

悪魔の勧誘か、はたまた仏の勧誘か。

少なくとも2人には仏の勧誘に見えた。

淀んでいた気持ちは一気に晴れ、2人で顔を合わせるまでもなく一斉にこう叫んだ。

「「よろしくお願いします!!」」

「ああ、こちらこそよろしく頼む。……そうだ、お前ら自分の名前をここに書いてみろ」

若干首を傾げながら、今よりもっと幼い頃に教えてもらった文字を書いていく。

そこに浮かび上がったのはふにゃふにゃの線で書かれた"ひおり"と"ひまり"という6文字だった。

「よくできました〜!よかった、自分の名前は書けるんだね!」

「漢字は?」

「「かんじ?」」

漢字、中国や日本で使われる文字だ。

この世界にも伝わり存在しているが、この村に住むものしか読み書きすることはできない。

漢字ともひらがなともアルファベットとも取れる不思議な造形をした文字が世間一般的な文字および言語だ。

「自分の名前を書けてるのも奇跡なんじゃない?」

「せっかくだ、考えようじゃないか」

数分悩んだあと、蒼泉が筆でスラスラと文字を綴っていく。

「緋色の双子、緋織と緋鞠……さっそく今日から練習だな」

一心同体以心伝心!天下無敵の炎の申し子、ここに爆誕