幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第18話

「貴様、餓鬼のくせにこんなところで何をしている?さっさと帰ってママと一緒に昼寝でもしてな!」
「負け犬の遠吠えだね。既にボロボロじゃないか。出直してくればー?そうしたところで僕には勝てないけど」

桜樹を逃がした後、数人で数十の相手をし続けていた。
だいぶ数は減っているが、敵部隊の中心である少年には未だに傷を負わせられていない。
こちらは刀なのに対し、相手は遠距離からお札を使い爆発を仕掛けてくる為に近づけないのだ。
そして今青梅がいるのは、薄い青緑の髪色をしたその少年の近く。
少年という形容が相応しい程幼く、戦場には似つかわしい風貌をしている。
その反面ませているようで、口が達者だ。
「お喋りが過ぎるぞクソガキィ!!」

勢いのまま少年へ突っ込む。
「ちょっと!危ないじゃないか!それに僕は餓鬼でもクソガキでもないよ。水無月ってちゃんと名前があるんだから!」
水無月……!?」

 

 

第18話「暗闇」

 

 

「お前暦(こよみ)の連中か!!」
「なんだ知ってたの?そりゃあそうだよね!あんたらが僕らを追い出したんだから!」
「あれは自業自得だろ!……まさかお前らが戦をけしかけたんじゃないだろうな!!」
「心外だなあ。もちろん恨みはあるけど、僕ら次世代にはあんまり関係ないからね。上の人なら何か知ってるかもしれないけど」
暦とは、呪術を扱う一族のこと。
その昔善からぬ呪術を振りまき、ひと騒動起こしたために村から追い出されたのだ。
もちろん村の記憶を全て消されて。
また、一族の中でも特別強い者には、12月の名をどれか1つ貰える。
つまり水無月、6月の名を持った少年は普通の少年ではない。
「そうだ、君はあいつらの仲間でしょ?僕が殺れば父様に褒めてもらえるかも!僕の為に殺られてね」
汚れのない純粋な笑顔は、彼の歪んだ性格を表しているようだ。
「戯言を!」
青梅は1本の刀を構え、水無月の方へ走る。
対する水無月はお札を構え、何かを唱え始めた。
「それはどっちの台詞かなあ!」
お札を空へ投げた時にはもう、呪術が発動していた。
青梅の体が、まるで時が止まったかのように静止する。

と同時に、固く握りしめていた刀が音を立てて地面に落ちた。
「動けない……っ!」
「爆発ばかりじゃ芸がないからね」
呪術とは、一般的に呪いと呼ばれる類いの物がほとんどだ。
利益があるものはおまじないと呼ばれるが、呪術は闇魔法の一種であるため扱うことは難しい。

お札という魔法道具を使い、発動する。
「おにーさんの闇を一緒に覗き見ようじゃないか。いや、おねーさんかな」
「やめ、ろ……!」
「やーだねっと」
先程とは別のお札を取り出し、動けない青梅の額へ貼り付けた。

そしてまた呪文を唱える。
「奥底に眠る黒き獣よ、我が元へ集い給え!」
「何をし……うわああああ!!!!」
青梅を黒いオーラが纏い、その場に膝をついた。
先にかけた金縛りは解けているが、体を動かすことは困難だ。
「おねーさんの闇は楽しませてくれるかな」

 


森の中を駆け抜ける保護色の少年が1人。
その姿はまるで風のようだ。
「あ!翠閃!おつかれー」
「はぁ、はぁ、おつかれーじゃねえんだよ……」
「珍しいわね、あんたの息切れ」
「うるせえ、っここまで、はぁ、飛ばしてきたんだ……早くしろ」
はいはい、と言いながら、金髪の少女は手を光らせる。
「深光術、光芒一閃(こうぼういっせん)」
その手を翠閃の背中に当て、翠閃もまたそれを受け入れた。
回復術だ。
「ずいぶんと消耗してるわね」
「全員と連絡取ったんだぞ……お前一気に全員回復してみろ」
「何?殺す気?」
「そういうこった」
木陰に隠れながら翠閃の回復を続ける。
戦闘した訳では無いため、大きな傷はない。
しかしそれ以上に気力と体力が消耗されており、回復するには時間がかかりそうだ。
「青梅さん達はどう?傷が多いならあたしが行ったほうがいいわよね」
「いや、お前はここにいた方がいい」
「は?怪我してないってこと?」
「武器的に不利ってだけで、あいつらにとっちゃあ大した相手じゃない」
「ふーん。ずいぶん青梅さん達を過大評価するのね」

「餓鬼1人如きに戦力は割けねえって言ってんだよ」

「素直じゃないの」

他愛ない、戦時ならではのやり取りを繰り返す。
しかし青梅と水無月の戦力差はその通りである。
歳の差もあるが、水無月の性格がそうさせているのだ。
「殺るのは時間の問題……おい、あいつら向こうに送り込んだのか?」
「ん?あの2人?知らないわよ。姉様に聞いてよね」
少しずつ回復してきた翠閃が何かを感知したようだ。
以前ベネジクトが使っていた、一定の範囲に居る者をサーチする草魔法とよく似たもの。
修行を積んだ翠閃は、知っている者なら術を発動せずとも感じる事ができる。
一定の魔力を常に張り巡らせているからだ。
「通信するからちょっと黙ってろよ」
「ちょっとまた術使う気!?回復する身にもなってよね!!」
「黙ってろって言ったろ」
少女の反論も虚しく、翠閃は指を組む。
「深草術、一木一草(いちぼくいっそう)」
百花繚乱とは違い、個人に向けて意識を飛ばす。
通信の先は――
『どうした』
「あいつらをお前が向かわせたのかと思ってな。何か指示したか?蒼泉」
少女が姉様と呼ぶのは、戦場の指揮を執っている蒼泉。
しかし実の姉妹ではなく、従姉妹にあたる。
『私は何も言っていないが、まさか向かったのか?あいつらではとても敵わんだろう。呼び戻せ!』
「言われなくてもそうしたいんだが、生憎回復中でな。行けそうもない。通信した所で止められないだろうからな」
『いつ終わる?』
「まだかかるわ。だって物凄く消耗してるんだもの」
「だそうだ」
直接触れている少女にも術の効果が得られるようで、何のためらいもなく会話に入り込んでくる。
翠閃が優秀だからかもしれないが。
『澄桃(すもも)か。お前ならその程度すぐに回復できるはずだが?』
「無茶言わないでよ!あたしだって疲れて」

『できるな?』

「はいはい分かりましたよ!やりますう!!」

 澄桃と呼ばれた少女は、手に最大限の力を込める。

それに比例するように、黄色い光も大きくなっていった。

『呼び戻せなかった場合はお前がサポートに回れ』

「はぁ!?何で俺が!」

『つべこべ言うな。それと澄桃は終わったら私の所へ来い』

「おっけー……!」

翠閃の返事も待たず、蒼泉の方から連絡を切る。
他の忍にはできないやり方だ。
「くそ、あいつら後で絞めてやる」
「ほどほどにしてあげなよね」
「おい、次はあいつらに連絡取るぞ」
「はぁーー!?もう勘弁してよーー!!」

 

 

暗い空間。
感覚の全てが奪われ、ただ頭の中をぐるぐるとさ迷うのみ。
「こ、こは……」
「君の闇の中だよ。想像してたよりずっと深そうだね。巡るのが楽しみだ!ああ、今の君には声も届かないんだったね」

ふふっ、と笑みを零す。
対する青梅は、なんの反応も示さない。
「あ!あっちに何かあるみたいだ!」
「……」
「つまんないの。仕方ない、五感を返そう」
水無月が指をパチンと鳴らすと、まるで眠りから覚めたように意識を取り戻した。
「っ!貴様何をした!?」
「さっき説明したから割愛。それよりあっちに行こ!」
「あっち?……あれは!?」
「なになにー?見られたくないやつ?だったら見るしかないよね!」
「待て!それはっ……ぅぐっ」
青梅の反抗も虚しく、水無月はそれに向かって突っ走って行った。
そして円形に浮かぶ青梅の記憶に手を伸ばし、指先から伝わせて覗き見る。
「随分と昔の記憶みたいだね。僕が産まれてないくらいかな」
真っ暗だった空間が、一瞬でその世界へと染まった。
静かで平和な時期の村だ。
スポットライトが当たっているのは、木刀を構えた少年と少女。
少年は少女へと向かうと、木刀を思いっきり振り下ろした。
しかし少女は対抗するでもなく、逃げるように木刀を避けた。
『避けたら意味無いだろ!受け止めろ!』
『わ、分かってるよぉ』
「首の桃模様を見る限りだと、この女の子はおねーさん?まるで別人だね」
「貴様に話す義理はない」
「ははっ、ごもっとも」
しばらく決闘を見ていると、避けきれなくなった少女の額に木刀が直撃した。
『はぁ、今日は終わりだ』
『待って!もう少しだけお願いします!』
『やったって変わんねえよ。見切りだけは上手いから褒めてやろうと思ったのに、最後で台無しじゃねえか』
『だって……』
『だってもくそもねえ!』
『あ、兄上が何も教えてくれないからでしょ!感覚だけじゃわかんないよ!!』
『ああそうかよ!なら父上にでも習ってろ!』
半べその少女を見捨て、少年はその場を去った。

残された少女はただそれを見つめ、ぼーっと立っておく他無かった。
『強く、ならなきゃいけないのに……』
大粒の涙を流し始めたところで、辺りがまた真っ暗になった。
記憶の再生が終わったのだ。
「終わっちゃった!これ本当に闇なの?」
「もう用は済んだだろ。早くここから出せ!」
そう言って水無月に切りかかる。
避ける動作ができず……否、避ける動作をしなかった。
「おっと!ここじゃあ攻撃は当たらないんだ。すり抜けちゃうからね」
何を言うでもなく、ただ鞘に刀を仕舞う。
顔だけはじっと水無月を見つめたまま逸らさない。
「そんな怖い顔しないでよ。そろそろ時間だし、時期に出られる」
どこかから光が漏れだし、その光に目が慣れる頃には元の場所へと戻っていた。
どうやらこの呪いには時間制限があるようだ。
「……戻ってきたのか?」
「嘘はつかない主義なんだ。さてと、もうお遊びは終わりだよ。早く長月姉様の所へ行きたいからね」

 

 

少し離れた森の中。
飛ばして走る2つの影があった。
真っ赤なその見た目は、緑の背景にくっきりと映る。
2人の顔はまるで分身したようにそっくりだ。
眉や口元、髪型や身長までほとんど同じ。
唯一違うのは目元と性別くらいだろう。
「もうすぐかな?」
「あと少しだろ!」
駆けている途中、ふと頭に声が響く。
翠閃だ。
『てめえら何勝手に行動してやがる!』
「「翠兄が行けって言ったじゃん!」」
『言ってねえよ殺すぞ!!』
「ご勘弁!」
「やだね!」
べーっと、見えない相手に舌を出す。

『てめえら帰ったら覚悟しとけよ』
「「ひゃいい!!」」
ドスのきいた声で脅しをかけると、流石に効いたようで全身を震わせた。
しかし駆ける足は止まらない。
『どうせ言ったって引き返さねえんだろ。俺も後から向かう。……無茶すんなよ』
そこで声がブチっと途切れた。
彼なりの優しさだ。
「こうなったら!」
「やるしかない!」
2つの赤い影は、目的地へと進んでいった。