幻石〜5つの石を探す旅〜

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幻石〜5つの石を探す旅〜 第11話

異世界に迷い込んだ少女は、そこで知り合った新しい母親を亡くし、義兄も亡くした。
残ったものは絶望と悲しみだけ。
それが力となって創り出された5つの石を、人々は幻石と呼んでいる。


第11話「繋ぎのお話し」



「あんな小さな子にそんな出来事があったなんて……」
黄色い男性――真騎からこぼれた一言。
幻石が生まれた理由を詩貴から聞いて、皆衝撃を受けていた。
伝説で語られているのは、あくまでも少女が5つの石を生み出したということだけ。
「もしかしてその石像って、アレス城の前にあるあれ?」
「そうさ」
あるのが当たり前になっていてあまり気には止めないが、城の前には当時のままの石像が置いてある。
結界で守られており、汚れもせず、当時の空気が保たれていて、動かすことも壊すこともできない。
「それにねえ、魔法とやらをこの世に生んだのもルシャトリエさ。ルシャトリエを石にしたあと、世界中の石が力を帯びて、一部の動物は進化していった」
一部の動物とは魔物の事だろう。
しかし魔物の魔力はあまり高くない。
ほんの数1000年の出来事ゆえに、不完全な進化なのだ。
「昔からあったんじゃないの!?」
「溢れでた霊力が変化したんだろうねえ。まあ、妖怪だけはその変化についていけなかったってわけさ」
「えぇ〜なんかそれ酷くない?好きで使えない訳じゃないのにぃ!!」
妖怪は能力を持っているから、というのが今のところ有力な説だ。
自分の能力に誇りを持っている妖怪だからこそ、進化を望まなかったのかもしれない。
「仮に魔法が使えたとして、あんたは使わないだろう?」
「うっ、それはそうだけど……でも仲間はずれみたいじゃない?白姫もそう思うよね?」
「別に。外されたのならばそれに入れるよう努力すればよいではないか」
「努力してもできないから言ってるんだよお!!」
これではどちらが親かわからない。
それからしばらく、世間話が続いた。



夕暮れ。
太陽が西に傾き、もうすぐ夜が来る時間。
会話がやっとひと段落していた。
「今日は久しぶりに楽しい1日だったね、詩貴姉さん?」
「ああ、いい刺激になったねえ」
長い時間を生きる妖怪には、この1日もほんの少しの時間だったろう。
その少しの時間でも楽しいことがあるのなら、例え明日が退屈だろうと、生きるのは苦にならない。
「で、今日はもう暗いし危ないから、みんなで一緒に寝よう!」
「そうですね。ですが、おじゃましても良いのですか?」
「ああ、あたし達は構わないよ」
「ええー野宿ー!?さいっあく!!」
ベネジクトは駄々をこねている。
年頃の女の子なのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
「流石に布団は仕舞ってないよ…やっぱり地面に直接寝るの?」
「あたしらは木によっかかって寝るからねえ。やっぱりそれじゃあ無理かい?」
「座って寝るってことよね?無理無理寝らんないって」
仕舞っていないとは、きっと鞄代わりの空間のこと。
ベネジクトの空間には飴やガムなど、甘いものが多めだ。
「大丈夫ですよ。万が一にと思って入れておいた私のを貸しますから、それでお休みください」
「万が一に布団って……用意周到すぎでしょ」
「昔少しだけ旅をしていた時期がありまして、その時の名残ですよ」
そう言うと、真騎は異空間から布団を取り出した。
ベネジクトはそれを受け取り、地面に敷いて準備を整える。
「ふかふか!ありがとう真騎!」
「いえいえ。お役に立てて何よりです」
それに対して白道と白姫はというと。
「ねえねえ白姫ー、今までのこといっぱい聞かせてー!」
「お主に話すことなど何も無い。同じような日々を過ごしておっただけだ」
「咲姫さんとはどうだった?」
「どうと言われてものお……普通だったと思うぞ」
「普通じゃ分かんないよー!!もっと具体的に!!」
またもやどちらが親か分からなくなる会話を繰り広げていた。
2人の間にぽっかりと空いた時間を埋めようとしているのだろう。
しかし白姫には伝わっていない……と言うよりは知らない人にベタベタされている感じのようだ。
白姫は白道の記憶が全く無いのだから無理もない。
「すみませんが少し席を外させていただきます。城と連絡をとる時間ですから」
そう言うと真騎は、森の闇に溶けていった。



今日も昨日と同じように、シャン、サージャ、レイバーが通信室に集まっていた。
そして同じように通信を始める。
「光闇さん、聞こえますか?」
『はい、大丈夫です。聞こえていますよ』
「どうだったんだ?守り人は見つかったのか?」
『はい!無事に時の幻石の守り人、発見いたしました』
シャンはほっと胸をなでおろす。
調べていたものが事実だったのだと、改めて実感しているのだ。
「その調子で、他の方々もお願いします。出発前にも言いましたが、急いでくださいね」
『わかっていますよ。ですが、何故そんなに急がれるんですか?』
「そ、それは……」
居もしない真騎から目を逸らすようにそっぽを向くシャン。
冷や汗もかいている。
「シャン様、何を隠されていらっしゃるのですか?正直にお答えください」
「俺らにも言えないことっすか?」
「えっと……その、忘れてて……」
さらに誰とも目を合わせないよう下を向く。
「聞こえません。ハッキリ仰ってください」
シャンは意を決して顔を上げ、声を張って答えた。
「忘れていたんです!私の20歳の誕生日までにあの5人を集めて、もう一度封印し直さなければならないことを!!」
それを聞いた全員、真騎、サージャ、レイバーが目を丸くした。
シャンの誕生日まではあと半月もないからだ。
いくら1人目がすぐ見つかったとはいえ、他もそうとは言いきれない。
「本当ですかシャン様……?それに封印って……」
「記憶違いでなければ本当です。封印はもちろん、これのことです」
左目とは色の違う右目を指さす。
現在その目は見えてはいない。
『……もし期日を過ぎればどうなりますか』
「10年前の封印は解け、もう一度暴れ回るでしょう。あの方に取り憑いたままかどうかはわかりかねますが」
「それなら俺達も捜しに行った方がいいんじゃねえんすか!?大人数で捜せば間に合うんじゃ……」
「駄目です!!そんなことをすれば民を不安にさせてしまいます。それに兄様にも御迷惑をかけてしまうでしょう!!」
静寂。
それは4人が揃った時にはあまり流れることのない時間。
常に誰かが口を開いていて、それをうるさいと思いながらも皆耳を傾ける。
それ程重い話題なのだ。
『きっと間に合います。いえ、間に合わせます。なのでシャン様はいつも通り、仕事をなさっていてください』
「真騎……はい。わかりました。貴方が言うなら安心です。ですがこの事はくれぐれも内密にお願いしますね」
『羽前さん達にもですか?』
「時がくるまで、適当に誤魔化しておいてください。あまり広めたくありませんから」
真騎がわかりましたと返事をしたところで、この日の通信は終了した。



翌日の朝。
鳥はさえずり、少しの風が木々を揺らす。
そして東から登っている光が、皆の目を刺激した。
「眩しい……直で当たってんじゃん……」
「あ、おいこら二度寝するでない!!」
ベネジクトは光と声を遮るように、布団で自分を覆い隠した。
「ベネジクトさん起きてください。急がないといけないんですから」
「だってまだ夜が開けたばっかりじゃん……もう少しぃー」
旅をするようになってから恒例のやり取りである。
そしていつもずるずると引きずり、出発はこれから約3時間後程。
起きたら起きたで用意が遅く、時間をどんどん削っていくのだ。




それからいつも通り約3時間。
やっと支度が整い、2人と別れの時間が訪れた。
「じゃあね白姫。僕はずっと待ってるから、餡ちゃんと仲直りしたら絶対戻って来るんだよ!!」
「お主が来れば良かろうが。……気が向いたらな」
「うえええん寂しいから絶対来てよおお待ってるからあああ」
白道は泣きながら、微笑んでいた白姫を抱きしめた。
昨日会った時とは違ってそれは一方的ではなく、白姫もすんなりとそれを受け入れている。
「なんか違和感。会って3日だけど素直にハグとか白姫じゃないわね」
「お主斬られたいのか?」
「喧嘩はいけませんと何度も言ったでしょう。ではお2人とも、お世話になりました」
「また会おうねー!」
元気に手を振る白道と……その隣で呆れた顔の詩貴。
詩貴は一歩前に出ると、4人を引き止めた。
「ちょっと待ちな。あんたたち何しにここへ来たのかもう忘れたのかい?」
「守り人を探しにだ。それくらい覚えておるわ」
「……探して終わりじゃあ、あたしらの存在を確認しただけじゃないか」
「詩貴さんの話しいっつも遠まわしすぎ!!もっとわかりやすく言ってよー」
詩貴ははぁとため息をもらし、真騎の顔を見る。
真騎なら理解してくれているだろうということなのだろう。
しかし真騎の頭にも珍しくはてなが浮かんでいた。
「もしかして、何のためにあたしらを探してるのか聞いてないのかい?封印を……」
「あ!!わ、わかりました!!」
詩貴の声を遮るように、大きな声で言葉を返した。
おそらく昨日シャンに口止めされたためだろう。
まだ理由は言うな、と。
「着いてきていただけますか?時節さん。あなたがいた方が、他の守り人達も見つけやすくなりますし」
「ああ。もちろんさ。でもあたしはあいつらの居場所も今の姿も知らないよ。もうずっと会ってないからねえ」
「えっ、そうなんですか!?」
詩貴は扇子を広げ、口元を隠す。
そして高らかな笑い声を上げ、こう続けた。
「あんたたちと居ると退屈しなさそうだ。よろしく頼むよ、もうすぐくるその時まで」